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富子幻舞
【歴史物 官能小説】

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富子幻舞-6

(・・・・最後にここに来たのはいつだろう)



思わず富子は小さな呟いていた。

今は省みられることなく古びてしまっているが、
かつては将軍家や公家・有力大名が北山を訪れる都度、

能を上演する時は必ず使用されてきた舞台だった。


創建自体は先々代の将軍の時代で、

現在の将軍・義政になって使用の頻度が激増したという。

だが、ある時期から義政の好奇心が北山以外の場所や室町御所での能上演に向いてしまった為、

いきおい北山での上演の回数も減少の一途を辿り、
結局僅か数年でうち捨てられてしまう結果となった。

まるで人間そのものの運気を体現したかのような能舞台の盛衰に、

富子の心の中を様々な想いがよぎり、そして消えていった。




「・・・・!!」



ここで富子は初めて
“別の人間”の気配に気付き、はっとして視線をそちらの方に向けた。

富子のの前方、10数歩の位置。

富子同様に廃棄間近の能舞台を見上げていた人物。

背丈は富子と同じくらい、飛び抜けて長身というわけではない。


侍烏帽子に、家紋以外の紋様はない赤い直垂という簡略な装いで、大小2本と扇子を腰に差している。

それらの大小については全体的に華美な装飾がない分、要所の見えない部分に職人のこだわりを感じさせるような代物だった。



相手も当初は能舞台を感慨深く見上げたままだった。

富子の視線に気づかぬ横顔は、
微かな口髭と文人風の顔立ち、そして武人特有の鋭さを持った目元が目につく。



そんな彼も富子の視線を感じたのか、おもむろに顔を動かし能舞台から富子の方に視線を動かす。


重なりあう視線。


やがて相手の方が先に一礼し、富子の方に向かってゆっくりと近づいてきた。





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