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富子幻舞
【歴史物 官能小説】

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富子幻舞-5

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―――ザクッ、ザクッ、ザクッ・・・・




既に地面を絨毯のように覆っている赤い紅葉を踏みしめ踏みしめ、一歩一歩ゆっくりと歩いていく。

北山に到着した後、山の麓に侍女・側近集そして賀茂右近すら待たせたまま、
富子は人気のない山道を目的の場所目指して歩んでいた。


今の富子の出で立ちは夏の嵐山の時と同様、身軽でさっぱりした小袖という出で立ちだった。

ただし今回は季節柄に合わせて色合いや紋様が変わっている。


夏の嵐山を訪れた時には、藍色の布地に、川の流れを表す水色の曲線、そして桃色の蓮の花をバランスよく編んだものを着ていったが、

今回は秋ということもあり、
えんじ色の生地に川の流れを象った紋様を編み込んだ上で、
その下の肌着に薄い柿色のものを使っている。


一見地味ではあるが、秋の北山の風景にすぐさま溶け込めるような出で立ちであった。







―――ザクッ、ザク・・・・・・・・



曲がりくねった山道を黙然として歩いていくと、前方に見えていた風景が漸く変化を見せ始める。


山の中腹の一角、道からやや外れた広場にまで来た時富子の足が止まる。


彼女の目に“目的の建物”が映った。



「・・・・・・」




それは“古びた能舞台”と、
周囲を囲むように配置されている“客席の台”。



紅葉の木々のど真ん中、
その能舞台がまるでそこだけ浮き上がっているかのようだった。




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