太一_はじまりの話-6
「私…ね、彼氏いたの。でも振られちゃった」
『……へ…ぇ、そうなんだ』
相変わらず保身でいっぱいの俺は、かろうじて言葉を発すると動揺を隠すように、コンビニで買ったばかりのビールで喉を潤した。隣で朱里が「歩き酒かよ」とぼやいているが、ビールを渡すと素直にプルタブを開けた。
「多分、私が悪かったの。」
『……何で?』
「んー…こんな性格だから?」
『何それ。訳わかんね。』
どう表現したら伝わるのだろうか。あの時の、足元が急に何もなくなったような感覚。内臓に突然鉛を詰め込まれたようなダルさ。
しかもその鉛は、朱里が言葉を綴るごとに重みを増していく。
(聞きたくねぇ…)
でもこの時、朱里に気を配るプライドが残っていて本当に良かったと思う。泣きもせず笑いもしない朱里の瞳に、暗く深い闇を感じたから。
ぽつぽつとゆっくり終わりまでの経過を話す朱里は、自分のふがいなさを咬みしめるような口調だった。
中一で初めての彼女が出来て以来何人かとつき合ってきたけど、俺はこんな風に心を痛めたことなんて一度たりともない。朱里のソイツに対する想いの深さが、テキトーな恋愛ばかりで、いざという時に逃げていた俺の胸を抉った。
そうしてワンルームの部屋に着き、ベッドを背もたれに二人並んで座った時、誰に言うでもない口調で朱里が呟いた。
「もう私、彼氏とか好きとか…面倒かな。ははっ。」
『…笑うところじゃないだろ。』
「うん…だね。でも私、こーゆう時どんな表情したらいいのかわかんなくて…はは。」
乾いた笑い声が部屋に響く。朱里が涙をこらえているのに、別れた事実にホッとしてしまっている自分がいる。臆病者の自分に、安堵する資格なんてないのに。