THANK YOU!!-5
「(・・・甘えたから。私が、甘えてしまったから。)」
電車に乗った瑞稀は端に座り、壁に頭を寄っかからせた。
考える事は、自分に対しての劣等感。
「(・・このままで、卒業なんてしたくないよ。もっと喋りたい。でも・・)」
ふと、自分の両手を見つめる。
この手には、拓斗の左手を握り締めたときに付いた血があった。
今は洗ってしまって影も形もないが、瑞稀の脳裏には赤黒い血がこびり付いたまま。
―今、トランペットを持てている自分を守ってくれたのは、誰だ?
そう、闇に住む黒い自分が問いかけているような気がした。
「(分かってる。守ってくれたのは・・拓斗。)」
―それだけでも有難いだろう。ならば、これ以上、何を望む?
「(・・・そうだ。私は、これ以上望んじゃいけない。)」
―そうだ。お前は温もり欲しさに、拓斗に甘えた。それが菜美を嫉妬に狂わせ、
拓斗に怪我をさせ、秋乃に深い悲しみを与えてしまったんだ。
「(・・・分かってるよ、そんなこと・・。)」
瑞稀は頭を振って無理やり黒い自分の言葉をかき消す。
こういう風にネガティブになっているから、自分はいつまでも拓斗に声をかけられないんだと。自分の紹介文に、『元気いっぱい』とか書いてあるくせに。
「・・・はぁ・・」
深いため息をついた瑞稀は、我に返って電光掲示板を見る。
なんとか今日は乗り過ごさなくて済みそうだ。
といっても、終点だから、上下線交代して路線を回っていくだけだが。
窓の外を見やると、7時近いからか、ほとんど暗くなっていた。
真っ暗な闇に、ポツンと浮かぶ青白い月。
そのまぶしさは、何者にも負けない輝きと強さを見た瑞稀は視界から消すと、
いつの間にか終点に着いていて、空いている電車の扉を映した。
小さな溜息をつくと、隣に置いたリュックを左肩にかけて電車を降りた。
改札を出た瑞稀は歩きながらリュックを漁る。
Suicaとは別に入れてあるバスの定期券を探すためだ。
だが、いつまでもその感触は伝わってこない。
埒があかなくなった瑞稀は、道の端に移動してリュックを下ろす。
そして、中を目で見ながらあさっていく。
すると、ピタッと瑞稀の手が動きを止まった。
「・・・ヤバイ。バスの定期置いてきた・・。」
瑞稀がそう呟くと、脳が理解したのか顔がサアっと青ざめていく。
勿論、バスは定期券がなくても乗れる。
しかし、先日発売された推理小説2冊買った上に、Suicaに交通費として自分のお小遣いの残り(札)を入れてしまって、今の手持ちは0円では無いが、バスに乗れる量でもない。(つまり0以上210未満)
「・・なんでこう、・・あー・・もう本当どうしようもない・・」
肩をガックリ落とした瑞稀はとりあえず、家に連絡をいれて、帰るのが少し遅くなる事を伝えた。
その時に、家族には「ばかじゃないの?」と言われたが、言い返せず受け流した。
電話を無理やり終わらせて、青い携帯電話を再びリュックに戻して左肩にかけると、もう一度ため息をついた。