THANK YOU!!-3
夏休み。
8月下旬に行われる鼓笛フェスティバルに向けて、瑞稀が所属する『music familiar』が
本腰を入れて練習をしていた。
大きめの練習場で、あちこちから様々な楽器の音がする。
太鼓、バトン、金管楽器・・。
・・・撤回しよう。
「様々」ではなく、「3つ」。
この鼓笛隊は、小学生から高校生で構成されている。
指導者は卒業生でもある大人が行うが。
(ちなみに、幼稚園生の場合、ポンポン隊という可愛い役が待っている)
瑞稀が属しているのは、金管楽器のトランペット。
自分のトランペットを持って練習している。
このトランペットは、もとは叔父のモノで、瑞稀が譲り受けたモノだった。
瑞稀の目標は、その叔父を超える演奏をすること。
「(とか言いながら、まだまだなんだけどさ)」
小さくため息をついた瑞稀は譜面台に置かれた楽譜を手にとって注意事項を細かくメモしていく。こうでもしないと、同じところを二度も間違える羽目になるからだ。
「えっと・・こっちがこうで・・」
「瑞稀ちゃん、どしたの?」
メモすることが多かったのでどれがどれかわからなくなっていると、傍にいた背の高い女の子が声をかけた。
その子は、歳こそは瑞稀と同じだがトランペット歴は瑞稀の2倍くらい先輩だ。
名前は、松樹優羽(まつき・ゆう)。男っぽいが、根はすごく優しい人だ。
「優羽ちゃん。なんでもないよ、ゴメン」
「そう?でも、最近瑞稀ちゃん元気ないってかぼーっとしてるから」
「アハハ、そうかな?寝不足なせいかも」
「またゲームしてるんでしょ?早く寝ないとダメだぞー」
そうからかいながら瑞稀に声をかけたのは同じくトランペットに属する一つ年下の女の子。優羽と一緒によく1stを受け持つ天才肌の子。
名前は、美南香菜(みなみ・かな)。天然女子でもある。
(他にも3人くらいトランペットはメンバーがいるが、本日は欠席)
「香菜ちゃん、それひどくねー・・?・・否定しないけど」
「しないんじゃん!」
拗ねてそっぽを向いた瑞稀はプクーっと頬を膨らませた。
それを見た二人は笑った。
すると、太鼓の様子を見に行っていた指導者であるヒカリが三人を見て呆れ顔になった。
「三人共、もうフェスティバル一ヶ月切ってるんだけど?随分余裕そうねぇ」
「え、あ、いや、余裕ってわけじゃなくて・・」
「そ、そうそう、今はちょっとした休憩って奴で・・」
「うん、休憩って大事だよね、うん、休憩終わろう、瑞稀ちゃん、優羽ちゃん、練習再開しよっか・・!」
「「うん・・!!」」
ヒカリの黒い笑顔に何とも言えない恐怖を感じた三人はすぐさまトランペットを構えた。
瑞稀も、楽譜を譜面台へ戻してトランペットを持った。
その様子を見たヒカリは大きくため息をついたが、すぐに微笑みに変わった。
だが、それを悟られないように練習場に響きわたるように叫んだ。
「フェス本番まで一ヶ月を切ってんだから集中!今年も団体賞狙ってくよ!狙いたい人は個人賞も狙っていくように!」
『おぉ!!』
ヒカリの言葉に、鼓笛隊全員が気を引き締めた。