カレーを食べに-3
「フルでお願いします!!」
必要以上に大きな声を出してしまった。いけない、興奮が声にまで出てしまう。高まる期待に心臓の鼓動が速まり、うっすらと手のひらに汗まで滲んできた。空腹は限界を迎えようとしている。もう待てない。はやく、はやくわたしのところにナンを。
そのとき。カレーとナンに脳内をすっかり侵食された彼女の隣に、若いサラリーマン風の男性ふたり組が座った。
そのうちのひとりがいかにも頭の悪そうな口調で言う。
「あ、僕、ここ先週も来たんスよ。ここのナンね、フルはやめといたほうがいいッスよ。もうね、ナンの大きさヤバイから。ギターくらいあるんスよ。楽器、楽器」
そして下品な声でぎゃははは、と笑う。もうひとりはそれを受けて、ごく自然にハーフサイズを注文した。
すっ、と血の気が引く。明らかに20代中盤くらいの若い男性ふたりが敬遠したフルサイズのナンを、わたしは注文してしまったのかと。年齢は彼らよりもわたしのほうが確実に一世代上だろう。そして、そのギターナンをこいつらの隣で食べることになるのかと。
わたしは選択を誤ったのだろうか。せめてこいつらと席が隣じゃなければいいのに。店員さん、そこは空気読んでくださいよ。どういう羞恥プレイですか。