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「ふたつの祖国」
【その他 推理小説】

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前編-20

「どうした?まだ、何かあるのか」
「どうも釈然としない……そもそも、何故、現場に死体を遺棄したんでしょう?」

 ──今朝の予感はこれか。
 島崎はそう思った。

「昨日の朝、その辺りも含めて在日外国人と見立てたんじゃないのか?」
「最初は、そう思ってました。だが、そう考えると矛盾してくるんです」
「矛盾が?」

 佐野は、自分の考えを切り出した。

「在日外国人だけに知らせるのが目的なら、他に方法はあるはずです。例えば、一目に触れぬ場所に遺棄しておいて、独自に知らせるとか。
 しかし、実際は誰もが知る場所に遺棄した。まるで、警察に知らせてくれと言わんばかりの場所に……」
「確かにその通りだが、両方を追える程、ウチには余裕がない」

 島崎の中に、何で今更という感情が涌いた。

「身元も判っていないから、大っぴらな状態で捜査が出来ない。それくらいに分かっているだろう」
「そうですが……」
「この話はここまでだ。とにかく、一旦、戻るぞッ」
「はい……」

 話は途絶え、二人は車に乗り込んだ。
 島崎は心の中で、戸田が何故、佐野を別班のサポート役として使っているのかを、何となく理解した。
 優れた筆の技術を持っていながら、画の一枚も描けない事と同様に、これまで培った経験に基づく推論は素晴らしいが、洞察や構築する力は少々欠けているようだと。

(佐野の頭脳に、彼奴の情報力が加われば……)

 島崎は助手席で揺られつつ、一人、幻想を抱いていた。





 島崎達が本部に戻ると、私服に着替えた鶴岡と岡田が居た。
 昼間は斉藤や善波達に同行していたが、これから、件の老人の塒へと向かうと言う。

「確認でき次第、連絡をくれ」
「分かりました!」

 二人は、勢いよく本部を飛び出す。この件に、早くけりをつけたい思いがそうさせた。

「あ、そうだ!」

 駐車場に向かう途中、鶴岡が何か閃いた。

「向かう前に、スーパーに寄ってもいいですか?」

 岡田には、鶴岡が言っている意味が解った。

「良いけど、夕方だからちゃんと選んであげてね」
「鮮度でしょう。解ってますよ!」

 車に乗り込んだ二人は、黄昏時の街中へと消えていった。

「たった一日で、随分と学んだようだな……」

 出て行った二人に、島崎がぽつりと言った。

「固定概念を崩すには、苛烈な出来事に遭遇するのが一番です」

 佐野が相槌を打つ。
 鶴岡の変化に二人は気付いた。


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