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「ふたつの祖国」
【その他 推理小説】

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前編-21

「今時、浮浪者への聞き込みなんてやりませんから。彼には、いい刺激になったのでしょう」
「そうだな……」

 島崎は頷いた。
 自分達、強行犯係にとっては皮肉めいた言葉なのに、何故か素直に利き入れてしまう。
 鶴岡を見た善波や藤沢にも、何れ、良い影響を与えるだろう。

「──ところで班長」

 佐野が何かを言い掛けた時、本部の電話が鳴った。島崎が向かい、受話器を取った。

「はい。捜査本部」

 耳許で、女性の声がした。総合受付からだ。

「事件に関して、伝えたい情報があると通報が来てますが。繋ぎますか?」
「事件に?」

 二人が色めき立つ。
 未だ、事件として公表していない事案を、誰かが嗅ぎ付けたのだ。

「繋いでくれ……」

 短い接続音の後に、受話器の音声が鮮明になった。

「もしもし。強行犯係の島崎だが、君は誰だ?」

 島崎は、電話機のボタンを押した。途端に受話器の音声が本部全体に広がった。

「──頭を潰された丸焦げの死体」

 聞き覚えのない声だった。

「報道管制を敷いたはずだが、君は何処でその情報を知ったんだ?」

 相手は、島崎の質問には答えない。

「抗日パルチザンという言葉は?知ってるか」
「……抗日……パルチザン?」
「そう。あの死体の損壊方法は、抗日パルチザンが行った処刑方法と酷似している」
「それは、何処の軍だ?ロシアか、中国か、朝鮮かッ」

 いつの間にか、佐野が受話器の間近に立って聞いていた。
 短い沈黙の後、再び本部内に肉声が響いた。

「白頭山を拠点地としていた朝鮮義勇革命軍。奴等が日本軍に対して行っていた」
「では、君はあの死体を日本人だと言うのか?」
「さあ。それは自負達で調べろよ」
「もう一度訊く。これだけの情報、公安でもない限り……!」

 突然、電話は切れた。島崎の中に違和感が広がった。

(どういう事なんだ……?)

 何処の誰かは知らぬが、事件に関する重要な情報がもたらされた。
 この様な事が可能なのは、自分が知る限り一人しかいない。が、その男には昨日、依頼を断わられた。

「これは、情報漏洩の可能性も考える必要がありそうですね」
「いや。恐らく、俺の知る男だろう」
「どういう意味です?」

 惘然とした表情の佐野に、島崎は昨日の昼、霊園での出来事を語った。


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