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「ふたつの祖国」
【その他 推理小説】

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前編-19

「出掛けるから、用意しろ」

 短い電話を終えて、松嶋が戻ってきた。

「出掛けるって、何処に?」
「お前には関係ない」
「でも、今、用意しろって」
「送って行くって意味だ!」

 オフィスを閉め、二人は地下の駐車場に降り立った。
 古めかしいルノーが、停まっていた。

「まだ、こんなのに乗ってたんですね」
「失礼だな。ちゃんと走るんだぞ」

 ルノーは、軽自動車より小さな車体に二人を積み込むと、唸りを挙げて駐車場から表に飛び出した。

「……お前も、休みにこんなところに来るんじゃなくて、恋人でも作れよ」
「自分だって、四十にもなって居ないクセに!」
「俺はまだ三十七だ!」
「大して違わないわよッ」

 ラッシュ後の閑散さに包まれた街の風景に、賑やかなルノーは溶け込んで行った。





 夕方

「それでは、宜しくお願いしますね」

 島崎と佐野は、現場から車で東に一時間程の距離にある、大手運送会社を訪れていた。

 他の捜査を部下に任せ、二人は殺害現場特定の為、運輸関連会社の担当運転手探しに奔走していた。
 運輸関連とひと口に言っても、運送に郵便、タクシー等と多岐に渡り、それらひとつを網羅するにも相当の手間が掛かる。
 そこで、各企業に赴き、事情の一部だけを説明して後日、担当運転手との聴取という形を採る事にした。
 当然、一般の運輸関連会社は心得たもので、警察への全面協力を惜しまない。
 二人は一部を除き、全ての企業に聴取の約束を取り付けた。

「結構、手間が掛かったな」

 協力を依頼し終えた二人は、会社の駐車場に停めた車の前へと戻って来た。
 島崎が、背広の内ポケットから煙草を取り出すと、火を点ける。何気ない一服のつもりだったが、佐野はその姿に、余裕のような物を見た。

「配達エリアから見れば、おおよそ半径三十キロ。これで見つけられれば良いのですが……」
「他も考えられると?」
「ええ。長距離トラックですよ」

 周辺地域に配送する運転手なら特定は安易だが、長距離運転手だとすると、その特定は困難だ。
 先ず、何処にも所属していない個人事業主が多数を占めており、彼等は独自の配送ルートで回る為、それを把握するには、全ての工場に聞き込みを掛ける以外にない。

「そんな事になれば、組織に教えるような物だな」
「そうです。だが、長距離トラックの運転手の中には、早めに現地到着しておいて仮眠を取る者もいます。
 特に、大きな工業団地なら車なんか走ってませんから」
「だったら、その運転手に直接聞き込みを掛けるか?
 鶴岡と、女性捜査官で生活安全係を装って」
「そうですね……」

 佐野は、島崎の提案に頷きながらも、何故か浮かない顔を見せる。


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