「こんな日は部屋を出ようよ」中編-2
「……後悔してるんですか?」
「ああ。後悔してる。でも、辞めないと思う……」
「矛盾してますね」
ルリの目許が微かに笑った。
僕も笑みを返した──自虐的な。
「わかりました……今日は諦めます」
「ありがとう」
時間にすれば五分足らずと短かったが、この時のルリは、確かに心を開いてくれた。
だが、不可解な言葉も残していった。
(今日は諦める?どういうつもりだ……)
また機会を見てという事なのか。それほど煙草に強い思い入れがあるのか。
「ほらッ。いい加減にしとけよ」
気付けば、あれほど賑やかだった学食に、閑散さが漂いだしていた。
「あ、ごめん!」
僕はこれ以上の推考を止めて、冷めた昼食を腹に詰め込んだ。
大学を終えて、ルリの家に行くまでの間はのんびり出来る時間帯のはずなのだが、
「なるほど……煙草ねえ」
「うん。そうなんだ」
僕はしがらみに勝てず、友人と喫茶店に来ていた。
まあ、大したしがらみでもないが、事は三十分前に遡る。
「ナオ!ちょっと待てよ」
帰宅の途に着いた僕の背中に友人が声を掛けてきた。
「なに?」
「何じゃないだろ。お前の悩みを聞いてやるよ」
「誰が?」
「俺がさ。何か不味いか?」
どうやら友人は、様子を見かねて相談に乗りたいらしい。
実にありがたい申し出だが、彼に話すとなれば、ある程度の事情を教える必要性が生まれてくる──それは避けたい。
「せっかくだけど、遠慮する」「ど、どうして?」
「自分で解決する必要があるんだ。人を巻き込むのは好きじゃない」
「お前が、彼処で俺に激昂した時点で充分巻き込んでるようだが?」
「そ、それは……」
「そう。俺が従妹の事を言ったからだ。だから、俺に話せって」
なんとも身勝手な論理。
彼には先日言った“相手を尊重する”という言葉の意味が解っているのか甚だ疑問だ。
唯、悶着の起因として、心の葛藤が顔に出易い僕にも責任の一端はある。そう考えると、彼が知りたくなるのも当然かも知れない。
「じゃあ、ちょっとだけなら」
「ヨシッ!ようやく決心したか」
つまり、そういう訳だ。
「煙草ねえ……」
友人は椅子にもたれ掛かり、手にした煙草を眺めている。
先端から立ち昇る紫煙は、悩める僕等を面白がるようにゆらゆらと揺れていた。