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「こんな日は部屋を出ようよ」
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「こんな日は部屋を出ようよ」中編-3

「……本人に聞くしかないな」

 煙草をもみ消しながら、友人が意見を放った。

「本人に?」
「ああ。吸いたい原因なんて本人以外は解るわけないだろ」
「まあ……そうだね」

 結局、廻り廻ってそこに戻ってくる。何だか酷く時間を無駄にした気分だ。

「因みに、君が始めたきっかけは?」

 次いでだから訊いてみたい。ひょっとすれば、何かヒントになるかも。
 友人は指で顎を撫で上げ、上目で宙を見つめた。

「俺は……注目を集めたかったからかな」

 意外な答えが返ってきた。

「どういう意味?」
「その、相手が持つ俺の印象を変えたかったんだな。多分……」

 ──印象を変えたい!
 その一言は僕の中にある好奇心を俄然、涌き上がらせた。

「変えるって、前は今と違ったの?」
「ああ。中学、高校と目立たない毎日を送っていたな」
「えっ?君が」
「そう。学校で誰とも喋らなかった日なんて、ザラだった」

 語る内に友人は、外の風景に視線を投げた。その眼に引きずった暗さは見られない。

「それで、煙草を吸って変わったの?」
「いんや。何も……何でかなあ。あの時は、変われると思っていたのに」

 僕逹は喫茶店を出た。
 梅雨も間近なせいか、折しも外は湿り気を含んだ風が吹いていた。
 友人が告白した内容は僕にとってはちょっとした衝撃だった。今の彼もまた、処世によって身に付けた術を駆使した賜だったとは。
 そう考えると、彼のお節介とも言うべき態度の一因が解った事は、僕としては嬉しかったし、今はもう過去の出来事としてふっ切れている事を尊敬したい。

(彼は僕なんかよりずっと大人だ)

 どんよりとした曇が空を覆う中、僕は晴れやかな気分で帰路を急いだ。






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