第8話 ホテル-2
もしかすると、その先が本当の真意なのか・・・・・。
慶の心に迷いはあるが、睦美に対する想いを考えると、後悔はしたくなかった。
気持ちの整理が付くと、勤務の日程を思い返していた。
そうすると、翌週は後半に一日だけ平日休暇があった。
それを頭の中で確認すると、すぐに睦美にメールを返信した。
その瞬間、睦美の思惑通りのシナリオが幕を開けたのだった。
その頃睦美は、自宅のキッチンで昼食の後片付けを済ませてリビングに居た。
いつも通りにソファーに陣取り、テレビの昼ドラを観ながらノートパソコンに向かっていた。
昼ドラの方は定番の不倫物で、流すような感じで観ては、もっぱらパソコンの画面に集中していた。
その訳は、ネットでホテルを検索していたからだ。
慶から具体的な返事を貰うと、すぐに向かったのだ。
睦美の性格は、物事を決めるまでは慎重なのだが、一旦決まると行動が早かった。
その表れが、こうして伺えるのだった。
睦美は、以前に待ち合わせた駅から近い、海岸沿いのホテルを中心に探していた。
下手に待ち合わせ場所を変えて、迷った時のリスクを考えると無難だった。
何よりも、土地感が無いので、人知れる事が無いのも理由の一つだった。
もちろんホテルと言っても、ファッションホテルなどでは無かった。
人知れず向かうとしては、車からそのまま部屋に入れるモーテルが一番なのだが、目的を見え透いてるようで抵抗があった。
ここまで事が運んだのだから、いっそうの事、思いの真意を伝えた方が楽なのだが、あくまでも目的はデッサンで、その先の駆け引きを楽しみたかったのだ。
睦美は、歳を重ねても男女の関係には純粋でありたかった。
だから、不純な目的だけで事を運びたくはないのだ。
しばらく閲覧すると、一件のホテルに目が止まった。
ビジネスホテルなのだが、チェックインが昼頃の日帰りプランなどがあり、妥当だった。
さすがに一泊するには、政俊にそれなりの理由を告げなければならないので、それだけは避けたかった。
お互い冷めた関係でも、そこまで野放しするほど認めては無かった。
このホテルに決めた理由は他にも、ビジネスホテルにしては海岸沿いにある為、景観が良いのも魅力的だった。
睦美はさらに、その景観の見晴らしの良さそうな部屋を満遍なく探した。
もちろん、部屋はツインルームだった。
ダブルの場合は目的を見え透いてるようで、チェックインの際に年齢差のある男女が入室するには抵抗があった。
男が年上の場合はよくある事だが、女の場合はどこか中傷の的にされそうだった。
どちらにしろ、数時間の間に密室に男女が二人きりになるのは、疑わしく思われる事に間違いなかった。
だから、ツインルームにする事によって、その疑いを少しでも軽減したかったのだ。
やがて、一つの部屋の画像にたどり着いた。
部屋は5階にあり、内装の色使いは、ブラウンを基調としたモノトーン調のシックな感じで、窓を開ければ広大な海が一望できた。
睦美は、その部屋で慶と過ごす時間を考えると胸が高鳴り、しばらく想いに深けていた。
『・・・・・はあ・・・はあ・・・もっと・・・もっと強く抱きしめて・・・・・』
その時、テレビからはベッドシーンが流れていた。
画面には、ベッドの上で戯れる、裸の男女二人だけが映し出され、激しく肌を交わしていた。
その光景を目の当たりにした睦美は、前日の晩に思い描いた悦びが、身体に再び蘇ってきたのだ。
『色白の肌・・・・・細い身体・・・・・指先・・・・・そして・・・・・汚れの知らない若い身体・・・・・。』
そして、顔は虚ろになり、パソコンの画面に再び目を戻して、部屋の画像を浸るように眺めていた。
『そのベッドの上で・・・・・私は誘うように座り・・・・・視線を感じながら・・・・・官能的に決める・・・・・』
『やがて我慢できずに・・・・・私の元へ誘われ・・・・・二人は落ちて行く・・・・・』
睦美は、眠るようにソファーに背もたれながら脚を開くと、再び悦びへと導かれていった・・・・・。