第5話 ビニールボール-2
しかし、せっかく描いても、誰にも見てもらう事の出来ない環境に虚しさを覚えて、その時に、中高年を対象とした趣味のサイトを見付けたのだ。
そして、投稿する事によって誰かに見てもらおうと考え・・・・・睦美と出会った。
慶は、デッサンに集中していた。
主に、抽象画を中心に描いてるが、想像力ばかりに頼って描くと、デッサン力が劣ると思い、ほぼ毎日のようにデッサンもこなしていた。
しかし、この日に限って上手く描けなかった。
素人から見れば、出来栄えが良くも見えるのだが、慶は納得しなかった。
描く対象物のあるデッサンにも、ある程度の想像力が必要だった。
対象物に目をやり形を覚えて、描く時にその物を想像できてないと正確に描けないのだ。
その想像力を妨げていたのは、数時間前に会ったばかりの睦美の事だった。
慶はたまらず、その場にスケッチブックを置くと、天井を見上げながら大の字に寝て、睦美の事を考えた。
慶は思春期を向かえてから、心を開けて話した異性は母親くらいしか居なかった。
母親を亡くしてからは、睦美が初めてだった。
確かに、年齢を偽った事に不満気な所もあったが、それに対して慶が怯えた感じになると、明るく振舞って気遣う優しさもあった。
そして、どこかあどけなく接してくるところに、年代を感じさせない可愛らしさがあり惹かれるのだった。
睦美のような年齢に、想ってはいけない感情が溢れ出て来ていた。
もし、慶の母親が生きていても、睦美の方が上だった。
そんな睦美に対して、芽生えてくる淡い思いが抑えきれなくなっていた。
慶は、孤独で寂しかった。
そんな隙間を埋めるようなに入り込んできた睦美に、甘えたくなっていた。
それは、身も心も全てにだった。
思わず、睦美の容姿を思い出していた。
端正な顔は、小ジワやシミも目立つが、それを覆う濃い目の化粧がどこか色っぽく艶があり、その下からは、タイトな服装が引き締まる整った細い身体で、全てにおいて魅力的だった。
そして、膝元から覗く光沢を浴びた黒い脚が悩ましく、純朴な青年を虜にしていた。
『黒い光沢に包まれる熟した魅惑が・・・・・青い果実を惑わすように露わになり・・・・・』
やがて、慶の物が徐々にみなぎってくる。
自分の母親のような年齢の女性に対して、決して向ける事のなかった欲求だが、すでに歯止めが効かなくなっていた。
そして衣服の上から右手でゆっくりまさぐり始めると、胸は高鳴り始め、いつの間にか露わな睦美の姿を思い描いていた。
『全てを脱いだ身体は聖母のようで・・・・・誘われるように肌を重ねて・・・・・』
やがて、睦美と身体を重ねる自分を想像しながら、みなぎりに触れ、ゆっくりと上下した。
母親のように甘えたい感情が、淫らに屈折して睦美に向けられたのだ。
そして、やさしく包みこまれるように、睦美と交わる情景を思い浮かべて徐々に早くなる。
『母性に包まれながら・・・・・背徳を冒すようにみなぎりを沈めて・・・・・』
決して踏み入れてはならない禁断の領域に、一歩ずつ近づいていった。
頂点が近づくにつれて、罪悪感と快楽が交差するように増していく。
登りつめる事を拒む気持ちと、抑えきれい快楽との葛藤に、新たなる興奮を覚えた。
『聖母を汚す罪を背に受けながらも・・・・・抑えきれない過ちは・・・・・至福を求めた・・・・・』
『あっ・・・駄目・・・僕は睦美さんを・・・はあ・・・はあ・・・・・。でも・・・もう我慢できないんです・・・・・。許して下さい・・・睦美さん・・・はあ・・・はあ・・・・・。睦美さん!・・・睦美さん!・・・あっ・・・あっ!・・・・・。』
『・・・・・慶・・・会いたかった・・・・・』
・・・・・!?・・・・・
そして頂点を迎えると、自分の中で淫れる睦美を思い浮かべながら果てた。
「はあ・・・はあ・・・・・。」
慶は、息を切らしながら天井を見上げて、しばらく思いにふけていた。
30も上の睦美に対して、向けてしまった欲求を思うと、今は罪悪感しか残らなかった。
まるで、母親と交わったような感覚にも陥った。
禁断の領域に、想像の中で踏み入れてしまったのだ。
慶は、純粋に睦美を慕う気持ちを思うと、これ以上は犯してはいけない行為と心に思った。
しかし、それは一時的な物で、時が流れるにつれて、脳裏に焼きついた快楽が慶を襲い何度も誘った。
その度に葛藤するのだが、抑えきれない欲求が理性に勝り、今後、同じ過ちを何度も繰り返す事になるのだった。
しかし・・・その中で、思いもよらぬ情景が、慶の頭の中を過ぎっていた。
・・・・・慶・・・会いたかった・・・・・