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偽りのデッサン
【熟女/人妻 官能小説】

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第5話 ビニールボール-1

列車は、駅を出発してから数分が経過していた。
睦美は、先頭から二両目のロングシートに、ショルダーバッグを膝に抱えて座っていた。
向かいのシートには、3歳くらいの男の子がビニールボールを手に抱えて無邪気にはしゃぎ、その隣には30代くらいの母親らしき女性が、子供に止めるように何度か促すように座っていた。
他には、睦美から少し距離を置く形で、数名の高校生らしき女子生徒が雑談しながら、同じシートに座っていた。

睦美は、背後の景色を眺めるかのように、目は一点を集中して青年の事を考えていた。
青年が、自分のような母親とも変わらぬ歳の女に、会う真意を知りたかったからだ。
確かに好意的だが、それは母性を期待しての事・・・52歳の男との情事を期待していた睦美にとっては、迷惑な事だった。
むしろ52歳の男が、自分の意中で無い相手の方が諦め切れて良かった。
まさか青年が来るとは思わず、気持ちの整理が出来ずに困惑していた。
睦美は、青年に対しては悪い印象は無かった。
どこか生真面目で低姿勢な態度が、今時の若者には珍しく、睦美のような年代には好印象だった。
それとは対照的に服装の方は、少し崩した感じで洒落ていて魅力的だった。
それで今まで、異性と付き合った事が無いのが、信じられなかった。
もし睦美が若かければ、惹かれるような気持ちにもさせられた。
ただ、あまりにもかけ離れた年齢の為、現実的には考えられなかった。
その壁が、青年に対しての気持ちを、否定的にさせていた。

『もし青年の気持ちが、その壁を乗り越えていたらどうなんだろう?・・・・・』

睦美の頭の中を一瞬過った。
青年は睦美に対して、例え母性を抱く感情しかなくとも、思わせ振りな会話などからして、好意的なのは間違いなかった。
さらには、自分のような年齢にも関わらず、時折見せる膝元を覗く行動が、性的対象と見られてるような気がして、睦美の気持ちを惑わしていた。
しかも、明らかに女を知らない・・・・・母性と言う名の餌で導けば、正しく籠の中の鳥だった。
そう思うと、車内で見惚れた、青年の身体一つ一つを思い出していた。

『色白の肌・・・・・細い身体・・・・・指先・・・・・そして・・・・・汚れの知らない若い身体・・・・・』

やがて、情事を期待していた、睦美の火照る身体は、淫らな妄想を描き始めた。

『色白の肌を交わして・・・・・細い体に包まれ・・・・・指先で導かれながら・・・・・そして・・・・・汚れの知らない若い身体を染めていく・・・・・』

睦美が30も下の青年に対して、決して思い描いてはいけない情景だった。
その過ちの情景が、逆に睦美の心を高鳴らせた。
もう、歯止めが利かなくなっていたのだ。

『・・・・・その身体に包まれながら至福の時を向かえる・・・・・』

やがて、睦美の物からは、冷たい感触が伝っていた。

ポンッ・・・・・

その時、睦美の足元に何かが当たった。

「すみません・・・・・。」

目の前の子供がビニールボールを落として、睦美の方に転がったのだ。
母親は申し訳なさそうに謝ると、ビニールボールを拾って席に戻った。
その瞬間、睦美は我に返り、無意識に太腿を閉じるように内股になった。
顔は俯き加減になり、頬は紅潮していた。
回りから見れば何事も無い光景だが、睦美の思い描いた情景は、そんな平凡な日常ではありえない事だった。
睦美には、不快な感触だけが虚しく残った。
それは、過ちの壁を越えようとした自分への戒めと思い恥じらった。
そんな睦美の葛藤とは裏腹に、回りは平穏な空気に包まれて、列車は家路を走っていた。

その日の深夜、とあるワンルームのアパートの一室。
青年は、上下黒のスウェットスーツのラフな格好で、ベッドに座りながら、花瓶に一輪挿されたバラの花をデッサンしていた。
名は高崎慶で、二十歳を向かえたばかりの若者だった。
住まいは、睦美と待ち合わせた場所から、車で一時間くらいの北の方角にあった。
街並みは、田舎にしては拓けてる方で、近くにはショッピングモールなどがあり、休日などは家族連れなどで賑わっていた。
元々慶は、郊外の住宅街の一軒家に父親と二人きりで住んでいた。
高校を卒業すると就職を機に家を出て、現在の場所にアパートを借りて一人暮らしを始めていた。
理由は、折り合いの合わない父親との二人暮らしがあった。
大手企業に勤務の父親は、家庭を顧みず仕事一筋の男だった。
慶が幼い頃から帰りは遅く、たまの休日でも仕事疲れで相手にしてもらえなかった。
母親も、そんな慶を不憫に思い、父親の分まで愛情を注いで育ててきた。
その時に、絵の才能を見出して、誉めながら伸ばしてくれていたのだ。
そうなると、慶の心は自然と母親の方に傾いていった。
そんな唯一の心の支えである母親が、突然交通事故で亡くなると、慶は激しく落ち込んだのだった。
慶と父親の関係は、母親が潤滑油のような変わりになって辛うじて保っていたが、それからは、ほぼ断絶したような状態が続いた。
やがて高校に進学するとプライベートで絵も描かなくなると同時に、元々内向的な正確に拍車も掛り親しい友人も居なくなった。
美術の教師に、美大の進学も勧められたが、父親に学費の援助などを請う事に抵抗があった。
それなら、就職をした方が楽かと思い、現在の仕事についたのだった。
職種は半導体を製造する工場で、毎日が同じような作業の繰り返しだが、あまり人間関係に縛られるような仕事では無いので、内向的な慶には向いていた。
勤務は交代制で夜勤などもあり、休日は平日休みの場合もあった。
そして勤めて一年が経過した頃から、仕事や一人暮らしにも慣れて心にも余裕ができ、再び絵を描こうと始めたのだった。


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