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偽りのデッサン
【熟女/人妻 官能小説】

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第3話 戸惑い-1

睦美の表情は困惑していた。
それもそのはず、52歳の男は明らかに見た目が若く青年だった。
もしかすると間違いかと思ったが、その男は睦美に軽く会釈してきた。
睦美はそれを目の当たりにして騙されたと思い、すぐに振り返りながら逃げるような足取りで駅の方へ向かった。

「待って下さい!・・・・・。」

青年は、慌てて車から飛び出すと、睦美に透るような少し大きめな声で発した。
周りに居た何人かの人々が異変に気付き、睦美達に目をやった。
さらに駅の方には、5、6人くらいの男女の高校生がたむろして、ニヤついた表情で見ていた。
逃げ場の失った睦美は、その場に立ち止った。
さらに青年も追いつくと、睦美の前に息を切らした表情で、向かい合うように立ち止った。

「はあ・・・はあ・・・ごめんなさい・・・そんなつもりじゃ・・・・・。」

青年は、肩で息をしながら申し訳なさそうな表情で詫びた。

「これはどういう事!?・・・私をだましたの!?・・・・・。」

睦美は、青年の謝罪の気持ちを受け入れる事なく、間髪いれずに被害者意識剥き出しに問い詰めた。

「本当にごめんなさい・・・・・僕は決して騙すつもりはなかったんです・・・・・。ただ、あなた・・・いやっ・・・ヤヨイさんが僕の作品に対して凄く興味を持ってくれたものですから、つい・・・・・。」

ヤヨイは、睦美のハンドルネームで特に意味も無く、思い付きのまま付けた名前だった。
睦美は、先ほどから謝罪してくる青年をみると、自分を騙したのにしては滑稽な気がしてきた。
冷静に見ると、青年は洒落た感じの黒縁メガネを掛けており、少し大人し目で気弱そうな感じだった。
背丈は、睦美より少し大きくてハイヒールを履くと同じくらいになり、体型は細身の色白で、最近流行りの草食系男子の部類に入るような感じだった。
服装に関しても、七分丈のカーゴパンツにハイカットのブーツを履いたりと、それなりに身だしなみも整っていた。
そんな青年が、自分のような熟年女を騙すにしては腑に落ちない部分もあった。
身体目的にしては親子ほど年齢が掛け離れており、金銭目的にしても睦美くらいの年齢でも抵抗できるくらい、ひ弱な青年のような感じだった。
そもそも、そのような事を目的で騙すのに、わざわざ絵画を書いたりするのはあまりにも手の込んだ感じがしていた。
とりあえず青年の言葉に耳を貸そうと、睦美は無表情ながら目を合わせた。
青年も分が悪いのか、少し顔を俯き加減だった。

「と・・とりあえず・・・約束通りお食事だけでも行きませんか?・・・・・。お詫びと言うのも何ですが、僕がご馳走しますから・・・・・。」

青年は、睦美の冷めた感じの視線にたじろぎなら、これを返すのがやっとだった。
約束に関しては、相手が52歳の男だった場合の事で、目の前の青年と考えると睦美は返答に困った。

「どうしようかな・・・このまま帰っても列車の時間まで、まだあるし・・・そうね・・・・・せっかくだから、お食事とまでは行かないかもしれないけど・・・少しだけなら付き合っても良いわ・・・・・。色々と聞きたい事もあるし・・・・・」

睦美も、今の行き場のない状況を考えると、青年に付き合った方が無難だと思った。
何よりも、このような事態になった経緯も知りたかったからだ。

「あ・・ありがとうございます!・・・・・。」
「それじゃあ・・・汚い車ですけど、乗って下さい・・・・・。」

青年も、睦美の表情が少し和らいだ事に気を良くし、車の助手席を自ら開け誘った。
さらに、二人の状況が穏便になってきた事に、回りの人々も興味を示さなくなっていた。
皮肉にも、今なら駅の方に向かえるのだが、ここまできて断っても今さらのような気がしていた。
何よりも、青年に悪意も感じられないようだから、暇を持て余すくらいならと睦美は車に乗り込んだ。

駅から西へ5分ほど車を走らせると、すぐに海岸沿いだった。
海水浴場もあり、夏場は海水浴客で賑わい車も混雑するのだが、今は秋も深まり疎らだった。
その海岸沿いを、睦美を隣に乗せて青年は走らせていた。
駅を立ってから10分ほど立ったが、特に盛り上がる会話も無く、回りの風景に何かしら言葉を交わす程度だった。
睦美もしばらく沈黙しながらも、さりげなく青年の方を見ては観察した。
間近でみると顔立ちは幼く、どちらか言うと少年に近い青年だった。
特に美形でもないが、顔は薄い感じで、睦美の年齢から見ると少し可愛いらしい感じだった。
髪型も、耳元に少し被るような長さでシャギーを入れワックスなどで少し立たせた感じで、さらに少し視線を落とすと、ニットのパーカの下に重ねてるVネックのシャツからはシルバーのネックレスが覗いて、その色白の肌の胸元からは、ほんのりと甘い香水の香りが心地よく漂っていた。
まるで、好意を寄せている異性にでも会うような身だしなみだった。
睦美も、青年と同じような年齢なら悪い気はしなかった。
生憎、睦美の服装は52歳の男を想定しており、落ち着いた歳相応の装いだった。
これが恋人同士なら違和感があるが、母親を車で送迎する息子などと考えれば、お互いを知らない者から見れば自然に見えた。
睦美に関しては、土地感が無い場所の為、知り合いなどとすれ違う事は滅多に無いはずだが、青年の場合は今の段階では知る由も無かった。
それよりも、年齢を偽ってまで熟年女と会う真意を知りたかった。


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