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イソギンチャクの夜(触手)
【獣姦 官能小説】

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イソギンチャクの夜-3

 ソレが入っていたのは、手のひらサイズの黒く小さな箱。見つけたのは先週だ。

 5センチ四方ほどの大きさで、なんの飾りもない。店の名前も書かれていなければ、ラベルもリボンも付いていない。

 仕事から疲れ果てて部屋に帰ったときに、ふと机の隅に置かれていたそれに気がついた。

 乱雑に積み上げられた仕事用の資料、散らばった筆記用具の類、うすく積もった埃。そういえば忙しさにかまけてろくに掃除もしていなかった。だらしない独り暮らし。

誰かにもらったプレゼントの空き箱か何かだったか。それとも昔、自分で買ってきたアクセサリーが入っていた箱だったか。思い出せない。その黒い箱は机の上で特別に違和感も無く、昔からそこにずっとあるもののようにしっくりと空間に馴染んでいた。

 手に取ってみる。軽い。

 中に何かが入っているような感じはない。振ってみても音はしない。さっさと開けてみればいいものを、何故だかそれがためらわれるような気がした。

 今日はバレンタインデー。

 ふと、わが身を振り返る。チョコレートは結局渡せなかった。

仕事に追われ、泥沼のような不倫の恋に溺れ、関係を清算することもできずにいるうちに、結婚相手を探すタイミングも見失った。毎日のストレスはいつのまにか澱のように蓄積されていく。頭が重い。体がだるい。

 いつか誰かが、このくだらない現状から救いあげてくれるような気がしていた。白馬に乗った王子様。年甲斐もない、夢見るババア。気持ち悪いことこの上ない。

 いつか彼が奥さんと別れて私を選んでくれる。そう信じて借りた、この3LDKのマンション。叶えられるはずのない願い。一人には広すぎて、寂しすぎて、悲しすぎる。

 ダメかな、もう。

 いろいろなことが限界にきている。やってもやっても終わりの見えない仕事にも、ごみくずのような恋愛にも。


 黒い小箱を手のひらに乗せたまま、なんとなく、泣いた。どこで間違えたんだろう。なにが悪かったんだろう。がんばってるんだよ、わたし、これでも。

 八つ当たり気味に小箱を壁に投げつける。箱のふたが壊れ、砂のようなものがサラサラとこぼれ落ち、妙な匂いが部屋中に広がった。


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