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【SM 官能小説】

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鏡 〜出逢い〜-5

中間テストの結果は俺の3勝2敗という結果で、晶は悔しそうに
「かぁ〜、今回はおまえに譲ったるわぁ〜」
と、俺のこめかみにグリグリと拳をあてるのだった。
「俺、前の晩寝ずにスパートかけたよ。」
笑いながらそう言う俺に
「姑息な奴っちゃなぁ!テスト前は八時に寝るんが常識やで!」
大げさに身を仰け反らせ天を仰ぐ晶。
「ま、勝負はまだあるし…やな」
ニヤリと不適な笑みを浮かべ
「で、どないや?今夜あたり」
そう続けた。
「マジかよっ?!おまえほんと好きだな…」
呆れ顔の俺。
「“英雄色を好む”っちゅうやんけ」
胸を張りそう答える。
「ただのスケベじじいみたいだけどな…」
「放っとけやっ!」
中指を起て
「愛を捜しに行くんやでぇ〜」
おどけた声で歌うようにそう言った。
「馬鹿…」
「馬鹿言いなやぁ〜、メッチャ傷つくわぁ〜」
「んじゃ“ホンモノ”とかの方がよかったか?」
「ホ、ホンモノて…」
若干堪えたようだが
「行くん?行かへんのん?」
ケロっとした顔でそう言った。
「悪いな、マジな話今日はやめとく。」
「うわっ、彰ちゃんツレないわぁ〜」
「きしょい声出すなよ。明日ボランティア行く日なんだよ。今夜準備したりしなきゃいけないし…」
「あ…そやった…ボランティア行かなアカンかってんな。俺もやったわ…」
憑き物が落ちたような顔になり晶が言った。
「おまえどこ行く言うてた?」
「老人ホーム」
「辛気くさっ!」
「おまえはどこだっけ?」
「俺か?俺、盲導犬訓練所やんけぇ〜。ワンちゃん大好きやねんかぁ〜」
目尻を下げ、そう言う晶は、とてもさっきまでナンパを誘っていた男には見えなかった。
「女のケツ追いかけるのもいいけど、たまには真面目に犬のケツの始末でもした方がいいぞ、おまえ。」
「あほぅ…おまえの方こそじじいやばばあのケツの始末しとけやっ!」
俺たちは顔を見合わせ笑い合うと
「ほな、またな」
「ああ、また」
軽く手を挙げ学校を後にした。


植え込みの木々がキラキラと日差しを浴び、地面に柔らかな影を伸ばしていた。
そよぐ風の中に薄く初夏の香りを感じ、俺は深く息を吸い込んだ。
眉の上に手をかざし空を見上げると、雲一つ無い五月の空が頭の上に広がっている。

施設を訪れた俺に、事務所の職員が
「いい天気だから、患者さんのお散歩を手伝ってもらおうかな。」
そう言い、俺は今車いすを押しながら施設の庭に居るのだ。
「いい天気ですね」
言葉をかける俺に、車いすに乗った老女が頭を少し動かしコクコクと首を傾け肯定の意志を伝える。
「行きたい方があったら教えて下さいね。」
そう言葉を足し俺は花壇がよく見える場所に向かった。
老女は嬉しそうな表情を浮かべると
「あ、ちょうちょ、ちょうちょ」
と、子供のような声をあげている。
花壇の前で車いすを止め、老女の気がすむまで花とそこに飛び交う蝶を眺める事にした。
蝶はヒラヒラと花から花を飛び渡り、チョンチョンと花に触れ、どの花に停まろうか思案しているようだ。その様子を見ながら、俺はそこに晶の姿がダブって見え口元が弛むのを感じた。
老女は飽きることなく花を眺め、蝶を目で追っている。
普段感じた事の無いゆっくりとした時間の流れがそこにはあった。
「さち代さん。」
後ろから声をかけられ老女が振り向く。俺もつられて振り返ると、一人の女の子が立っていた。
「さち代さん、よかったわねぇ。今日はいい天気だもの。お花が綺麗ね。」
ニコニコと笑顔を浮かべるその女の子に、俺は見覚えがあった。
老女はウンウンと言うように頭を動かすとまた花に目を移す。
「こんにちは、お手伝いありがとうね。」
女の子は俺に視線を移すとそう言った。
「あ、こんにちは。」
「退屈でしょ?」
いたずらっ子のような表情を浮かべる。
「いえ、そんなこと無いですよ。こんなにゆっくりとした時間を持てる事って無いから…ちょっと楽しいかな?」
「え?そう?」
クスクスと笑いながら
「食事の時間は戦争になるわよ。」
そう言った。
「そ、そうなの?」
「嘘よ。ごめんなさい、脅かして。」
愉快そうに笑い、俺は一瞬呆気にとられたが
「ひどいな!」
抗議の声をあげながら一緒になって笑った。
それから俺たちは少し話をした。
彼女の名前が『春沢菜緒』といい、隣接する病院の看護学校にいる事。週に何回か、この施設で介護の勉強兼手伝いをしている事。
俺の名前が『山本彰吾』といい、ボランティアでここに通う高校生な事。
そして、二人が同じ年だった事。


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