ユウナ-3
アサミは立ったまま上を向いて口を中開にした。
私は顔を横にしてうえから覆いかぶさるように口を重ねた。
ちょうど90度ずらして口を重ねていることになる。
私は、アサミの後頭部を左手で押さえて、右手を彼女の左脇の下から背中に廻して、彼女の体を斜めに抱えた。
そうしないと口を直角の角度で重ねられないからである。
あたりはシーンとして、私と彼女の鼻息だけがスースーと聞こえた。
私は鼻から息を吸い、アサミは鼻から息を出す。
どうしてもアサミは呼吸が浅くなり速くなりがちなので、心の声でもう少しゆっくりするように語りかけた。
だが、生身の女性がこういう体勢で落ち着いて呼吸するのは多少無理かもしれない。
腕の副脳から彼女が性的に興奮して来て、心拍数もあがってきたと報告があった。
それで少し多めに呼吸をして、口を離した。
『すぐ、本番の治療をしますが、やり方はあなたの首筋に私の口から細い注射針のようなものを2本出して刺します。
ちょっとだけチクリとしますが,痛くありません。
私は人間ではないので、蝶々が花の蜜を吸うときに使うストローのようなものを持っています。
それが注射針の正体です。一本はあなたの血を吸います。
あ、怖がらないで下さい。
吸った血はすぐ戻しますから。もう一本の針であなたの体に返します。
でもその血の中には私のエネルギーが入っているので、全身に廻って悪い所を全部治します。
頚動脈に刺すのであなたが暴れたり動いたりすると危険です。
あなたにとっても私にとっても危険なのです。
そのため、戻される血の中には、あなたが気持ちが良くなる成分が入っています。
体の力が抜けて、性的興奮に似た感じが全身に巡ります。
それは終わった後も続く場合がありますがやがて薄れます。
時間は人によってさまざまです。
10分くらいの人もいれば1時間の人もいます。
ではソファーに横になってください。
首筋へのエネルギーの注入は1分ほどで終わります』
私はアサミをソファーに横たえさせると背中にクッションを当てて頭をのけ反らせた。
彼女の顔を自分の方に向けさせ、私はソファの前の床に座って上半身を前のめりにして彼女の首筋に口を当てた。
このときも腕の副脳の情報を貰って総頚動脈の正確な位置を探した。
吸入管を下に排出管を上に刺して、彼女の動脈血を私の治療エネルギーが蓄積されている器官に入れてまた戻して行った。
動脈血は勢いが良いのでコントロールしようとすると針がぬけそうになる。
その分口をしっかり吸いつけているので、キスマークのようなものがつくこともある。
また、総頚動脈は脳に近いのですぐにも脳内の薬効成分が分泌されて、性的興奮状態になる。
しかし体はそんなに動かない。
アサミは弱弱しく手を乳房のあたりに当てて、熱いと言った。
治療効果が出て来た証拠だ。
そして私は針の先から血管に開けられた穴を塞ぐ糊のようなものを出して出血を防いだ。その後針を抜くと、ほんの少し首筋に赤い跡がついただけで、キスマークにはならなかったので、ほっとした。
もうこれで終わった訳だが、アサミは体を捩じらせて切なそうに悶えている。
『リーマックスさん、これじゃあ生殺し状態です。何とかしてください』
『大丈夫です。もう少ししたら終わります。待っていて下さい』
私が言った通りに、だんだんアサミは声をあげて体もソファーの上でバウンドし始めた。やがて一声長く呻くとアサミの体は激しく痙攣した後、ぐったりした。
『3日ほどで癌細胞はなくなるでしょう。でも新しい組織ができて全快するには1週間見てください。
その後病院に行って再検査してみれば完全に異常なしになっている筈です。
でも私のことは黙っていてくださいね』
私はそういうと彼女の邸宅を後にした。
そして、私にはあと2人の気になる顧客がいた。
けれども治療エネルギーは1人分なのだ。
私は彼女らとコンタクトは取っていたが契約はまだしていない。
1人は健康な娘だった。だが彼女の父親が死に瀕していた。肝臓癌だ。転移もしている。彼女はまだ早いうちに自分の肝臓を父親に移植してくれと申し出た。
だがサイズもあわないし、適合しないということで承認されなかった。
彼女は自分の貯金の総てを渡したいと言ったが、それは財産といえるようなものではなく、お年玉程度の額だった。
そんな金額では貴重な治療エネルギーは使えない。
もう1人の女性は成人女性だが少女のような体型をしていた。
体の発達が遅れて特に筋肉が退化して行く病気だった。そのうち呼吸する筋肉も動かなくなり死ね運命だった。
彼女は知能が優れていてインターネットで仕事をしたり株式市場でお金を稼いでいた。
だから彼女なら十分な治療のお金が払える。
私は当分生活して行くだけの財産も手に入っているので、人間のふりをして国外で暮らそうと思う。
偽の戸籍やパスポートも作って出発する用意もできている。
だが、お金はあればあるだけ安心である。
今の体が老人になるまでもう治療行為はしたくない。
危険がともなうのは儀式そのものだけでなく、私の存在が知られてしまうからだ。
だから、このまま行ってしまいたいが、一度コンタクトした娘たちをそのままにして行くのは心苦しい。
それで、私は健康な娘ナナミに告げた。
あなたの卵子を1個もらって、それで父親を治すことができると。但しエネルギーが半分余るので、その分をお金で渡しますと。
そして筋肉が衰えていく病気の娘ユウナに告げた。ちょうどあなた1人分を治療するエネルギーがあるので、治すことができるとそして謝礼の財産をナナミに渡してくれと。なぜと聞かれたので私は事情を話した。