〈不治の病・其の二〉-13
『ほら、カメラに向かって自己紹介だ』
「お"う"ぅ"!!!」
弱者に成り果てた麻衣に、卑怯者のオヤジは勝ち誇った表情を浮かべて、麻衣の前髪を左手で掴み、ギャグを噛まされた下膨れの顎を右手で掴むと、その半壊した顔を見下ろしているカメラへと向けた。
勝ち気な瞳はギロリとオヤジを睨んでいるが、口からは早くも涎が滲んでおり、あまり迫力を感じさせない。
『この牝の名前は石田麻衣。23才のナースだ。今からコイツをオモチャにしま〜す』
「!!!!」
オヤジのふざけた台詞に顔をしかめ、視界に捉えているオヤジの顔を横目に睨んだ。
その白目を剥いた形相は、この撮影が同意の上などではなく、一方的な〈要求〉で行われている事を表していた。
巷に溢れるヤラセ演技ではない、本物の感情を爆発させる本当の犯罪映像……禁じられた品物だからこそ高値で売れるのだ……それはやはり、麻薬的な興奮に満ちた物になるはずだ。
「おご!?も"お"ぉ"ぉ"ぉ"!!!」
『服がパツパツで苦しそうだねぇ?可哀相なオッパイを楽にしてあげよう』
両手の空いたオヤジが、麻衣の胸肉をナース服の上から摩ると、麻衣はいよいよ怒りの呻きをあげて、懸命に身体を捩って抗った。
低身長を割り引いても巨大な胸肉は、身体の捩りに呼応して左右に揺れ動く。
それは亜矢の胸肉の揺れとはレベルの違う、正に暴れると表現しても可笑しくない、ブルンブルンとした揺さぶりだった。
『ほほぅ?巨乳を自慢してるんですかな?』
『あんまり暴れるとボタンが飛びますぞ?』
「ぐぐッ!!んぐぅ!!!」
麻衣はこの胸がコンプレックスだった。
小学生の頃から発育が進み、ランドセル姿には不釣り合いな容姿は、同級生の男子の格好の餌食だった。
人並み以上に大きな胸をからかわれ、体育の授業の時には笑い者のようにされていた。
同級生はおろか、町行く大人の視線すら集めてしまう胸が、本当に嫌いだった。胸の小さい同級生の女子には疎まれ、誰も悩みを共有してくれず、一人で悩む日々……何時からか、麻衣は胸を馬鹿にする男子に反発するようになり、それが効果があると分かると、ますます性格はキツくなっていった。
この胸が、麻衣の今の性格を作り上げたと言っても過言ではない。
『お〜、跳ねる跳ねる。凄いねぇ』
『中でブラから外れてポロリしてるかもね?』
『ナース服に擦れて乳首勃ってるかもしれませんなぁ』
胸を笑われる屈辱は、麻衣の顔を紅潮させ、瞳を潤ませた。
小さな頃から受けてきた、心ない嘲笑とは比較にならない蔑みの言葉に、麻衣は傷付きながらも負けまいと自らを奮い立たせた。
潤む瞳は輝きを増し、患者達の楽しげな笑顔を凍り付かせようと妖しさを増していく。