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〈不治の病〉
【鬼畜 官能小説】

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〈不治の病・其の一〉-1

澄み渡る青空に、薄い白い雲が流れていく。
雲雀は賑やかに唄い、数羽の小鳥の群れが、はしゃぐように羽ばたいていった。周囲には人家もない、雑木林と沼地の点在する場所に、白い巨大な建造物が聳えている。

〇〇市立〇〇病院。

[先進的医療を我が市に]

をスローガンに、巨額の費用を費やして造られた病院は、その地域の人口に対してもあまりに巨大に過ぎ、まるで不釣り合いな威容を誇っていた。


元々は、その地は町だった。
数年前の市町村合併の時に、近隣の四つの町が一つとなり、新たな市として誕生したのだ。
新しい市に変わるとなった瞬間から、様々な思惑があちこちに生まれた……。
集まった四つの中では一番大きな町にある病院の院長が、二番目に大きな町で土木会社を経営している町会議員と結託し、最先端医療を兼ね備えた病院建造を掲げて初代市長に立候補したのだ。

田舎の哀しさか、その土木会社に父親や息子が勤めている家庭は多く、その社長たる町会議員の考えに意を唱える者はおらず、工事に伴う金回りの良さだけを見て賛成者は過半数を超えた。

最初からある程度の投票数を得ていた院長は、当然のように選挙に勝利を収め、いずれは新病院の院長になるレールまでも完成させていた。


無謀と思える予算額。


病院の建造費用だけでも田舎の市の税収の数十年分にも達し、更に土地代ともなれば、とても市民には伝えられない金額に達していた。
それでも建造縮小の答えには方向は向かない。
権力を手にした市長と社長議員に、市民の燻る不満など届くはずがない。

結局は、多少の予算縮小の為に、駅からも遠く、土地代の安い市街地から離れた場所に建てられる事となり、自動車でなければ通院出来ない不便な土地に着工となった。
沼地と雑木林が広がる景観の良さをアピールしたりもしていたが、そんな景色は田舎には掃いて捨てるだけある。
市長・市議会と市民の温度差は広がる一方だった。
そんな不便な病院では、最初のうちだけは物珍しさと〔オラが町の自慢の病院〕という低レベルな思い入れだけで通院する者は居たが、数年も経過して、市長が職を退いて二代目院長に就任する頃には、地元の人達の人影は疎らになっていた。

『俺が作った病院だ』

鼻息が荒い“元”市長が就任しようが、赤字は予想を超えて多くなっていき、経営は苦しくなっていった。
結局は、先進医療を欲する県外の患者だけが多く利用する病院となり、地域住民には、あっても無くても殆ど変わらない病院に成り果てていた。


「俺達の税金で建てて、結局は俺らには関係ないクソ病院」

「死にそうな大病にならなきゃ行く必要も無い」

「市の借金を増やした金食い虫」


地域住民は陰口を叩いて不満を口にしているが、最初の着工の時に美味い言葉に騙され、自分でよく考えたりもせず、ホイホイと口車に乗った己の軽率さには気付く様子はない。
田舎の市に、そんな病院が必要かどうかなど、少し考えれば分かると思うのだが……。




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