〜第3章〜 金曜日 シルヴィア-3
誰か忘れものかと思って生徒会室の扉をあけると、そこには予期せぬ男子生徒が立っていた。
「あらっ、‥貴方あの時の?」
つい今しがた思い返した男子生徒。リック・ジョンソンの理不尽な暴力の被害者。学園の守るべき生徒である。
「どうも、こんばんは」
私も夜の挨拶を返す。次の言葉を述べる前に、彼はそっと手を出した。その手にはハンカチが握られていた。
「あの、この前はどうもありがとうございました。これ、洗濯してきましたので‥」
‥思い出した。あの時、血が出ていたからハンカチを渡したんだ。なんだか逃げるように去っていったから、すっかり忘れてたわ。
ハンカチを受け取りながら、彼を観察する。どうやら頬の腫れはひいたみたい。うっすら傷が残っているけど痛くはなさそうだ。
だが何となく違和感を覚えた。前に会った時は弱々しい印象を受けたが、今はなんだか自信に溢れたような‥
‥‥!
ここしばらく思い返したこともない嫌な気分がよみがえる。そうだ、ガーランド先生だ。目の前の彼が放つ雰囲気は、あの高慢で威圧的なオーラを感じさせる。
だが、すぐに私は心の中で否定した。そんなわけないじゃない。きっと気のせいよ。疲れてるのかしら。
私は笑みを浮かべ、フレンドリーに接しようと努めた。
「この前は大変だったわね、もう大丈夫?」
「はい、おかげさまで。大した傷にもならなかったようです」
「それにしても、こんな時間まで残っていたの?」
「ええ、‥その先輩にきちんとお礼が言いたくて」
‥なんだ、礼儀正しいし、やはり良い人じゃない。どうして、あんな人のこと思い出したのかしら。
でも、気持ちとは裏腹に、心の中の何かが私に警鐘を鳴らす。
「それで、‥お礼に是非見てもらいたいものがあるんですよ」
彼の浮かべている笑みは偽物だ。声には悪魔が潜んでいる。
私はそれを断ろうと、いえ、彼の行動を止めようと制止の言葉を発しかけた。
だが、彼がポケットから出した何か赤いものを突き付けられ、言葉を失った。
その何かは、赤い宝石に見えた。言うまでもなく無機物だ。だが、直感的にこれは生きてる、それも危険なものだと認識した。
次の瞬間、それは文字通り、目を剥いた。宝石の表面に現れた禍々しい瞳が私を見据 え、強烈な赤い光が脳裏に焼きつく。
一瞬にして意識が赤い世界に閉ざされる。何も見えない、何も考えられない。