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凶眼
【制服 官能小説】

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〜序章〜 火曜日 占い師-1

 夕闇が押し迫り、繁華街が夜の帳に包まれる中、僕は狭い路地裏を急いでいた。
 ビルの裏手は狭いだけでなく、プロパンのボンベやエアコンの室外機が邪魔で歩きにくい。おまけにゴミまで散らかっている。
 だが、腕時計に一瞥くれるや歩みを速める。もうあまり時間がない。
 ビルを挟んだ向こうから、大通りの雑踏が聞こえてくる。宵の口を迎え、呑み屋やゲームセンターが軒を連ねるカーメル駅前通りは、仕事帰りのサラリーマンや遊び目的の若者達で溢れ始める。いつもならともかく、この近道を行かなければ電車を逃してしまうだろう。
 換気扇から、フライドチキンの香ばしくも脂っこい熱気が吹き付けてくる。ケンタッキーの攻撃をかいくぐり、生ゴミ臭いポリバケツをよけると、ビルの隙間から駅の看板が垣間見える。
 よし、これなら間に合いそうだ。
 問題なければ後数分で、駅の西口近くに出るはずだ。この電車を逃すと、次の便まで30分も待たねばならない。
 もし、この電車を逃したら‥
 「プリティエンジェル」の放映時間に間に合わないじゃないか!
 ‥アニメの時間は神聖だ。毎日学校へ行っては勉強、塾に行ってはまた勉強。昨日も今日も代わり映えない日々に、唯一潤いを与えてくれるのがアニメである。
 中でもプリエンは妖怪ハンター魔鈴と並ぶ僕のお気に入りだ。これを見逃すのは、クリスマスのない12月も同然。
 もともとプリティエンジェルは女児向けのアニメである。セント・ローザ学園に通うルシールとセラフィが、プリティブラックとプリティホワイトに変身して、悪の組織ワルインダーと戦うストーリー。これまでは土曜の朝放映されていたが、幅広い年齢層の人気を博し、第2シーズンから毎週火曜の夜7時へと放送時間が変更になった。
 普段なら十分間に合う時間に家へ着くのだが、今日に限って塾の講師に捕まり、進路のことを あれやこれやと説教くらい、おかげで出るのが30分も遅れてしまった。
 おまけに今日は録画予約をしていない、‥いや、何より、プリエンファンとして、初回放送を見逃すなどあってはならない。
 ‥そう、絶対に!
 ようやく路地裏を抜け、大通りはすぐそこである。再び時計に目を落とす。余裕はないが、走れば間に合うだろう。
 「‥ねぇ、そこの‥君」
 急に呼び止められ、駆け出す寸前だった僕はつんのめりそうになった。
 駅前にはアイドルの生写真売りからガラクタのようなアクセサリー売りまで、怪しげな露天商に事欠かないが、声の主は、その類とは異なる妖しさを湛えていた。
 フードの付いた紫のローブをかぶったお姉さんは、プリティエンジェルの魔女幹部マージョのような格好をしていた。マージョは黒いローブに魔女の帽子をかぶった姿で、手には魔法の杖を持っているが、このお姉さんは、水晶玉の乗ったテーブルを前に座っている。どうやら占い師のようだ。
 こんな人目につかないところで商売を?と訝しむより、僕の心を捕えたのは、声だった。
 今の声、プリティホワイトの声優さんに似てて綺麗だったなぁー
 その美しい声が魅惑の言葉を紡ぐ。
 「君、自分の運命、変えてみない?」
 抗いがたい響きが僕の心に絡みつく。普段なら無視するところだが、駆け出すのがためらわれた。
 そしてー



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