〜第1章〜 水曜日 レアン-15
突然の電子音に、飛び上がりそうになるほど驚いた。
聞き覚えのない着信音に違和感を感じながらも、携帯電話を取り出すが、何の着信もない。
音の出所に耳をすませ、ようやくそれが脱ぎ捨てた制服の内ポケット、凶眼と共に譲り受けた、あの鳴らない携帯からだと気付く。これには出るべきなのだろうか?
「‥も、もしもし?」
「ウフフ‥、昨夜はどうも」
恐る恐る電話に出てみると、聞き覚えのある声が笑いかける。昨夜の占い師のお姉さんだ。
「どう、凶眼は気に入ったかしら?」
耳に心地よいその声は、僕の切羽詰まった状況にそぐわなかった。聞きたいことが次から次へと浮かんでくるが、口をついたのは全く別の言葉だった。
「‥本物だ、とても良かった」
「フフ‥、それで初めての子は気持ちよかったようね」
再び僕は冷水を浴びせられたような気分を味わった。
「‥まさか、見てるのか!?」
それは全く頭にない考えだった。すでに日は山の端に隠れ、辺りは夕闇が押し迫ってきている。そこまで考えていたわけではないが、この廃墟におぼしいプレハブは、どこからも死角になっているはずだ。
「‥違うわ、安心して。私には、凶眼が目覚めたことがわかるだけよ‥」
‥それは、あの宝石に瞳が浮かんだことだろうか。納得したわけではないが、少なくとも嘘を言ってるようには思えなかった。
「ところで後始末の件だけど‥」
そ、そうだ。彼女をどうにかしなくては‥
「後のことは任せて。貴方は帰っていいわよ」
「はいっ!?」
「任せてって‥、一体どういう意‥」
「文字どおりの意味よ、彼女のことは何も心配しなくていいわ」
思いもよらぬ申し出に、完全に面喰った。意味を図りかねて、返事もできない。
「大丈夫、今日のことが思い出せないよう、彼女とお話をするだけ。何も危険なことはないわ」
‥そんなことが可能なのだろうか。だが、すでに常軌を逸した力を、今経験したばかりだ。
「それで‥貴方、今何処にいるの?」
他に何の考えも浮かばないまま、僕は彼女の問いに答えていた。