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天使に似たるものは何か
【SF その他小説】

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天使に似たるものは何か-7

 そう言うとR・ロビンは、窓辺のカーテンをきゅっと握りしめた。暗がりで分からなかったが、もしかすると涙も流していたのかも知れない。
「おかしな話ですが、私はそれ以来、そのご老人を父親だと考えるようになったんです。人格を提供して下さった娘さんの人格が、私に少なからず影響を与えているからなんでしょうか。オートマトンのくせに非論理的なんですが…」
「何事も論理で片付くモノじゃないし、そうすべきでないことだって沢山あるさ。そのご老人は紛れもなく君の父親だったんだよ…」
 マクグーハンの言葉にR・ロビンは静かに頷くと、天上を仰いで大きく息を吸い込んだ。それから気持ちを切り替えるように軽くかぶりを振ると、再び寝台の中へと潜り込んだ。
 もそもそと子供のするように布団の中を移動するR・ロビン。マクグーハンは神妙な面持ちであったが、R・ロビンの子供じみた行動に苦笑を漏らす。
 その後しばらく、二人は睦み合ったが、やがて雨音の中に意識は遠のき、再び眠りの中に落ちていった。

“人造人間は機械羊の夢を見るのか?”

 まるで雨の呪いにでもかかったかのように、ミモザ館の誰もが深い眠りについている中、新型の娼婦アンドロイド、R・ミシェルは夢を見ていた。様々な記憶が洗い出され、再配列されていく中、その中にあり得ない記憶が甦ってくる。
 陽光の溢れる白い部屋で穏やかな笑みを湛えた若い夫婦がテーブルに座っている。それは恐らくR・ミシェルの両親なのだろうが、顔の部分は不鮮明でどうしてもよく見ることができなかった。
 人造人間であるR・ミシェルに両親がいる筈もないのだが、理屈で割り切れない感情がR・ミシェルの中で溢れ、懐かしさと思慕と渇望が彼女の動力炉を焼き焦がした。
 声を出そうとしても声が出ない。両親に呼び掛けようとしても名前すら思い出せない。果たしてそれは現実のことなのか、それとも夢の中の出来事なのか、それすらも分からなくなったR・ミシェルは混乱して絶叫した。
 それは声にならない声であったが、神経系の異常を感知したシステムは彼女の休眠サイクルを強制的に中断した。
 悪夢にうなされたR・ミシェルは休眠サイクルの中断と共に跳ね起き、まるで水中から飛び出してきたように空気を求めて大きく喘いだ。
「………パパ、…マ…マ」
 ふと気が付くと、夢でうなされた為か涙が頬を伝っていた。彼女はそれを手で拭うと、気を落ち着かせ、再び布団の中へと潜り込んだ。
 雨音が心の中にまで染み込んでくるが、その晩、R・ミシェルは再び休眠サイクルにはいることはなかった。

 翌朝、地雨は降り続いていたがエディングトンが馬車を手配させると言い、マクグーハンは帰り支度をして馬車を待った。
 しかし、そこへ寝間着のままのR・ミシェルが現れ、不可解なことを言い始めた。
「此処にいる私は本物の私なの?それとも私は誰かの夢が見ている影なの?これは現実?それとも夢?」
 マクグーハンはR・ミシェルの言葉に色を失い、彼女を寝台に座らせると電子頭脳に異常がないかを調べ始めた。
 そこへ、R・ロビンが馬車が到着したと報告に来た。しかし、深刻な顔をしてR・ミシェルの検査をするDr・マクグーハンの姿に声を失い、心配そうな表情で事態を見守った。
「あ、あの、ドクター、何か不具合でも…?」
 おずおずと訊ねるR・ロビンに、マクグーハンはかぶりを振って応える。
「休眠時のデフラグで何かおかしな夢を見たらしいんだが詳しいことは分からない。システムに異常は見られないし、感受性の豊かな子だから何かが原因で混乱しているのだと思うが…けど、このまま記憶の混乱が続けば人格の崩壊にもつながりかねない」
 マクグーハンの言葉に、沈痛な表情を浮かべるR・ロビン。
「そんな、昨日は異常がないと仰有ったじゃないですか…」
「確かに昨日の時点では異常は無かったんだ。原因はデフラグ時に現れた奇妙な記憶の再現なんだ。話を聞いてみるとどうやら人格提供者の記憶が再生したらしいんだが、こんな事は通常あり得ない。記憶の洗浄が完璧ではなかったのかも知れないが、剣菱が…いや、ブレインがそんなミスを犯すはずもない。これは多分、誰にも予想し得なかった事態なんだろう…」
「それじゃあこの子は一体どうなるんです?」
「昨日もその話をしたが、恐らく記憶の再洗浄か、人格プログラムのリニューアル。既に完成している陽電子頭脳に外部から手を加えるわけだから当然リスクも高く、成功率も低い…」
「何とか助ける方法は無いんですか?」
「どうにもこうにも、このまま放置してもいずれ人格崩壊を起こす危険性が高い…。どうにもならないよ。一か八か、記憶の再洗浄をして…」
「そんなの駄目ですっ!!」
 R・ロビンは、普段は見せない剣幕でマクグーハンの言葉を乱暴に遮った。


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