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天使に似たるものは何か
【SF その他小説】

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天使に似たるものは何か-6

 言われて、悪戯をした子供のようにくすくすと笑うR・ロビン。そんなR・ロビンを愛おしく感じ、マクグーハンはその細い身体を太いかいなでぐっと抱き寄せた。
「暖かくて、すべすべして、気持ちいい…」
 溜息を吐くマクグーハン。
「まるで、人間の女を抱いているよう…ですか?」
 R・ロビンも、白くしなやかな腕をマクグーハンの背中に回し、彼の愛撫に応じるように身体を仰け反らせる。
「…なんだい、それは?」
 首を傾げるマクグーハン。
「さっき言ったでしょう、ドクターは他の人と違うって。私を愛して下さった殿方は、誰もが私を誉めるときにまるで人間そっくりだって言うんです。どんなに私のことを愛して下さっていても、よくできた人形以上のものではないのかも…」
「君は君だ。人形でも、人間もどきでもない。僕はオートマトンはオートマトンとして存在意義を見出せばいいと思っている」
 マクグーハンは真摯にそう応えるが、R・ロビンは少し嬉しいような、また、悲しげな笑みを浮かべるだけで返事はしなかった。
「…ドクター、寒くないですか?もう少し体温を上げましょうか?」
 そう言って、マクグーハンの背中に回した腕にきゅっと力を込めるR・ロビン。
「寒くなんてないさ。僕の心は火傷しそうなくらいに熱いよ…」

 その深夜、ふと目を覚ましたマクグーハンは、窓辺に裸のまま立っているR・ロビンに気が付いた。
「…休眠サイクルに入らなかったのかい?それとも、嫌な夢でも見たとか…」
「夢って、休眠サイクル時のデフラグの事ですか?確かに非現実的な記憶の再生は起こりますが、それは人間の見る夢とは違いますよ…」
 そう言って微笑みを浮かべるR・ロビン。しかし、マクグーハンの目には、その微笑みは先刻と同じく少し寂しい笑顔に見えた。
「いや、人間も似たり寄ったりだと思うがね。まあ、そんなことより、何か考え事かい?」
「いえ、ちょっと父親のことを考えていて…」
 R・ロビンはそう言って、曇った硝子を指で辿り、丸いスマイルマークを描いた。しかし、その笑顔は溜まった水滴にすぐに壊され、笑顔は泣き顔に変化する。
 それを見て、自嘲気味に笑うR・ロビン。
「父親って、君の設計者のことかい?」
「いいえ、私は自分の設計者には一度も会ったことがありません」
 R・ロビンの言葉に、黙って首を傾げるマクグーハン。
「昔、私が生まれて数年経った頃、お客として初老の紳士が現れたんです…。ふふ、そんな顔をしないで下さい。私の仕事は御存知だった筈でしょう?それに、その紳士は私を買っても、私の身体に指一本触れようとはせずに、眠くなるまで世間話をして、それだけで帰っていったんです」
「その紳士というのは、その…、あちらの方が不自由だったとか、そんな話なのかい?」
「私も初めはそう思っていました。わざわざ高いお金を出して娼婦を買って、それで何もせずに世間話だけして帰るというのは私には理解できませんでしたから…。でも違ったんです」
 R・ロビンの言葉に、マクグーハンはますます首を傾げた。
「一体、その老人というのは何だったんだい?君のような高級娼婦を買って、それでただの話し相手になって欲しかったというのかい?それだけのお金を出すなら、話し相手なんていくらでも見つかるだろうに…」
「ええ、その通りなんですけど、それで私もその老人は男性としての機能を無くしておられるのだと思い、もう一度お見えになったときに私の方からなんとかしようとお誘いしたんです。でも、それが却ってその方の不興を買ってしまって…。結局そのまま怒って出て行かれたんです」
「何だったんだい、そのご老人は?ますます分からない…」
「実はその方が私の父親だったんです…」
「父親って…」
 オートマトンに父親がいるのかと言う質問を、マクグーハンは思わず飲み込んだ。しかし、R・ロビンはその事を察して頷いて見せると、話を続けた。
「仰有りたいことは分かりますわ。そのご老人が父親と言っても、私に人格を提供して下さった方の父親なのですから…。昼間にお話に出ましたが、オートマトンの人格は他界された方の人格を複写して、記憶の洗浄をしたものを使います。私の人格はそのご老人の亡くなられた娘さんのものを複写したもので、そのご老人にとって私は娘さんの生まれ変わりだったのでしょう。数ある同型機の中で何故私が選ばれたのかは分かりません。恐らくたまたまだったのでしょうね…。それで、その事が分かったのは三度目にその方が私を買ってくださった時に、謝罪と共にその事を教えて下さったんです。記憶や容姿が変わっても、その所作や面影は娘の生まれ変わりだと。だからそんな私が男を誘うような事をしたので腹が立ったのでしょうね。それから何度かそのご老人はお見えになりましたが、いつの日かぷっつりとお見えにならなくなったんです。心配したのですが、その頃の私はミモザ館を離れることはできませんでしたし、お客様のプライバシーは固く護られていましたから。後から分かったことなのですが、私を買う為に相当無理をしてお金を工面されていたようで、それが原因かは分かりませんが、程なくして亡くなられたと…」


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