投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

天使に似たるものは何か
【SF その他小説】

天使に似たるものは何かの最初へ 天使に似たるものは何か 4 天使に似たるものは何か 6 天使に似たるものは何かの最後へ

天使に似たるものは何か-5

「それで、R・ミシェルに不具合がないのは分かりましたが、どうでしょう?これまでのオートマトンと変わったところは?」
「そうですねぇ…。まあ、確かに風変わりではありますが、それも性格の問題ですから。オートマトンの場合は、ベースとなる人格は人間の脳を元に作られますが、記憶部分は削除されます。それを元に同型機が造られますが、同じ人格をベースに造られても個体差が生じます。人格は環境によっても変わりますし、同じ兄弟でも性格が違うのと同じですね。まあ、今回のケースは人格の提供者が風変わりだったと言うことも考えられます」
「人格の提供者、ですか…」
 溜息交じりに呟くエディングトン。そこへ、R・ロビンがお茶と茶菓子を持って戻ってきた。
「支配人はあの子の人格提供者を御存知なんですか?」
「いや、まさか。いくら私でもそこまでは知らないよ。ただ、R・ミシェルの場合はこちらに搬送されてきたときに、同年代の少女の人格が提供されていると聞いたのでね。普通、未成熟な子供より、人格の完成した成人女性から提供を受けるものだから、気になったのさ」
「ああ、それなら僕も剣菱の開発部にいる友人から話を聞いたことがありますよ。その事でR・ミシェルの人格が風変わりなのだとは思いませんが、一端ではあるしょうね」
「まあ、ともあれ何事もなくて良かった。あの娘は器量が良いのでネットオークションでも問い合わせが殺到していてね。初夜権を賭けたオークションも明日の晩に迫っているのに、ここで初期不良が起きたからオークションは中止です、なんて事になったら、暴動が起きかねないよ…」
「R・ミシェルの人格の提供者って、どんな人間なのかしら」
「おいおい、よしてくれよ。アンドロイドの人格提供者となるとつまりはもうこの世にはいないって事だろ?だとしたらカフラの宗教センターかそうでなくても何処かのセメタリーだ。死んだ人間のことに興味なんて持たないでくれよ…む、なんだ。雨が降ってきたのか?」
 パラパラと砂を撒くような音がして、エディングトンは顔を窓の外へ向けた。すると、雨は思い出したように勢いを増し、何処か遠くの方では雷さえ鳴り始めていた。
「ええ?天気予報で雨だと言っていましたか?いや、参ったなぁ………」
 この時代の天気はブレインによって完全に制御されており、雨が降る予定も事前に分かっていた。しかし予定も見なければ意味はなく、マクグーハンは雨具を用意してはいなかった。この時代の雨は酸を含み、人体に悪影響すらあるというのに。
「いいえ、雨なら丁度よろしいじゃありませんか。うちも宿屋みたいなものですから、お部屋を用意させますわ」
「いや、そんな御迷惑はおかけできませんよ。馬車でも呼んでもらえれば…」
「まあ、そんなことを仰有らずに…。うちの支配人も是非にと申しておりますし…」
「……え?儂か!?」
「支配人。私、ドクターをお部屋にご案内しますわ。それでは…」
 R・ロビンは挨拶もそこそこに、マクグーハンの鞄を持ち、手を引いて支配人室を出た。いそいそと部屋を出たR・ロビンとマクグーハンをエディングトンは呆気にとられて見ていたが、やがてやれやれといった調子で肩をすくめると、小さくクスリと笑みをこぼした。
「驚いた。R・ロビンがあんな少女のような顔をするなんてな…。あんな顔を見るなんて、何十年ぶりだろうね…」
 エディングトンは昔を懐かしんでそう呟いた。彼がこの娼館に来たのは三十歳そこそこの頃で、本社の剣菱からミモザ館に転属になったときにはひどく困惑した。その時の支配人にあれこれ教わりながら、館の運営やオークションの設定を必死にこなしていたのだが、その頃のR・ロビンはとてつもない売れっ子で、初めて彼女を見たときにはとても輝いて見えたものだった。
「おい、息子よ。俺達はあの女神様の泣き顔も笑顔と同じくらい見てきたじゃないか。そんなに尖るなよ………」

 地雨はその名の通りしとしとと単調に、止めどなく降り続き、じわりじわりと地面に浸食していく。そして夜になって気温が下がると、空調の利いた部屋の窓ガラスは曇り、外の暗闇を隠していた。
 照明を落とした仄暗い部屋の中に、若い女性の甘い吐息が漏れる。それはR・ロビンのもので、その白く柔らかな肌に顔を埋めているのは勿論パトリック・マクグーハンであった。
「ドクターは他の人達と違うんですね…」
 官能の波に揺られながら、R・ロビンは譫言のように呟いた。
「こんなところでまでドクターと呼ばないでくれないか…。萎えてしまうよ」
 そう言って苦笑を漏らすマクグーハン。しかし、R・ロビンは拗ねたような顔を見せ、マクグーハンのモノクルを取り上げてしまった。
「それなら、こんな野暮なものは外して下さいな…。それとも、私の身体の奥まで覗き込みたいのかしら?ドクターは意外といやらしい人なんですね」
「やあ、知っていたのか。そいつはポジトロニック波や陽電子頭脳の電位の変化を読みとり、異常がないか調べる機械なんだ。勿論、使わないときには機能を停止しているけどね。それにしても、いやらしいというのは心外だな…」


天使に似たるものは何かの最初へ 天使に似たるものは何か 4 天使に似たるものは何か 6 天使に似たるものは何かの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前