栄子 後編-8
ぱちゅっ、ぱちゅっという粘液が飛び散るような音が響き渡り、四人の獣のような呻き声が社に充満する。
「うぁぁっ……出るっ……イくよっ……小林っ……ふぁっ……ふぁぁっ!」
奇妙な悲鳴をあげて沢田があっという間に絶頂した。
「次……次は俺だからな……っ」
「俺にも……俺にもやらせろよっ」
休む暇なく長谷川と片山が沢田を押し退け、栄子の足を高々と持ち上げる。
俺はもう見ているのも飽きて、カバンを持って一人社を抜け出した。
身体が鉛のように重く、何もする気が起きなかった。
全て自分で仕組んだことなのに、ひどく気が滅入って無性に泣きたいような気持ちが込み上げてくる。
計画段階で感じていた栄子に対する罪悪感は、もう完全に消え失せていた。
俺はいつからこうなってしまったのだろう。
俺の中には悪魔が棲みついてしまったのだろうか。
どうして―――女という生き物は、俺に嫌なものばかり見せるのだろう。
誰かにすがりついて、この気持ちを受けとめて欲しかった。
「―――たすけて」
トボトボと歩きながら小さな声でそう言った途端、頑なだった俺の心が僅かに綻んだような気がした。
――――助けてくれ!
――――助けてくれよ!
「……父さん……」
無意識のうちに口をついて出たその名前に、身体の中心がガラガラ崩れるような感覚を覚えた。
足を引きずるようにして家にたどり着き、玄関を開けると、いきなり母が立っていた。
きつい化粧品の匂いと、胸元の開いたセーター。
そしてその顔には、あきらかに迷惑そうな表情が浮かんでいる。
「……あ、明彦―――帰ってきたの?」
玄関のたたきを見ると、見たこともない男物のスニーカーが無造作に脱いであった。
「―――ごめんね」
たった一言そう言われ、無理矢理千円札を握らされると、目の前でピシャリと玄関が閉まり、内側から鍵をかける音が聞こえてきた。
俺はその場にがっくりと崩れ落ち、声を殺して泣いた。
男が出てくる前に立ち去らなければ―――。
何度もそう思ったが、苦しくて悲しくて、どうしても立ち上がることが出来なかった。
END