全一章-3
その点私の、イエ、女性のモノは美しいです。
複雑です。芸術的です。それに奥ゆかしいです。
男のようにストレートには見えませんし。
こんなことがあって、かどうか分かりません。
もともとかも知れませんが、男が嫌いになってしまったんです。
日曜日、同級生の美佐と買い物に行ったんです。
スカウトされそうになりました。
「あの、ちょっとお話したいんですが、よろしいですか?」
何度か経験していましたので驚きませんでしたけど、
気障を鼻先にぶら下げているような男だったので、
「ちょっとだけなら」と言って舌なめずりしました。
「立ち話もナンですので、その辺で」
喫茶店の奥へ誘おうとするので、サッサと入り口近くの席に座ってしまいました。
「何でもご注文ください」
「何でもいいんですか?」
「ええ、どうぞ。ちょっと話が長くなりますので」
「ホントに何でもいいんですか? 高くても?」
「いいって言ってるでしょ」
「じゃあ私、フォアグラとトランペットを包んだカエルのファルシィとシャンピニョン・ジロールのソテのドリアンピュレ。美佐は?」
「ショウロンポーとみそラーメン」
「あのー、ここ、喫茶店なんですけど」
「ダメ? じゃあ、二人ともお水」
「あ、君、キミ。私はエスプレッソ。こちらお二人にお水ね。最高のミネラーワーラーを」
「かしこまりました。え? お水だけですか?」
「そう。いけませんか? 金は払います。大枚持ってますから」
「かしこまりました」
「あのー、私、こういう者です」
「コウイウモノさんですか。これ何ですか?」
「名刺です」
「キャーうれしい、名刺ですって。この子にもあげてください」
「あ、すみません。よろしく」
「良かったね。カピバラ」
「カピバラ?」
「ええ、この子カピバラっていうんです。ボーとしてて可愛いでしょ。お腹さすると寝ちゃうんです。ここで試したらダメですよ。セクハラで訴えますから」
「そんなことしません!」
「この名刺って、売れるんですか?」
「売れません!」
「冗談ですよ。ムキにならないで。ところで、お話ってナンですの?」
「芸能界に興味ありませんか? 私、芸能プロダクションの者ですけど」
「テイノウの人たちを集めてらっしゃんですか?」
「低能じゃありません。芸人です」
「ゲイですか? 私たちレズですけど」
「そういう話じゃありません。あなたのように美しい方は、映画とか、タレントとか、テレビとか、そういう世界で活躍できるんです」
「エッ。じゃあ、おたくに入れば、AKBとかに逢えるんですか?」
「そりゃあもう、誰にだって逢えますよ。どなたか紹介しましょうか?」
「うれしい! ホント誰でもいいですか?」
「いいですよ。私の話を聞いて頂けるならお約束します」
「カピ、誰にでも逢えるんですって。じゃあ私、オードリーヘプバーン」
「死んでます」
「原節子さん」
「死んでます」
「あーあ、殺しちゃった」
「失礼。まだでした」
「まだなんて、失礼な方ね」
「ちゃんと聞いてくださいよ。あなた高校生でしょ? 瑞々しい美しさを持ってらっしゃる。個性的です。芸能界に入れば売れっ子になれます。私が保証します」
「カピ、私って美しい?」
「タブン」
「多分じゃありません。美しいです。綺麗です。だからスカウトしたいんです」
「スカウトだなんて。SKN」
「SKN?」
「そんなの興味ないわ」
「ああ。そういうの・・・KYみたいな」
「古いですわ。私たち上流階級の女の子の間ではもっと長いんですのよ」
「ほおー」
「ABMIAHWKSK」
「ナガッ。どういう意味ですか?」
「あなたばかねもういいかげんあきたのではやくわたしたちをかいほうしてください」
「そういうの、高校生の間で流行っているんですか?」
「親のような言い方止めて下さらない?」
「は?」
「コウセイ、アアセイ、コウコウセイなんて。失礼ね」
「すみません」
「謝って済むんなら盗撮はしません。ア、警察はいりません」
「参ったなあ。なんとか真面目に聞いてもらえませんかね」
「不真面目に見えますか?」
「見えます! 私は真剣にあなたを口説いているんです」
「ホラ始まった。男はみんな女と見れば口説くのよね。ねえ、カピ。だから男ってイヤなのよね」
「そういう口説きじゃないでしょうに。タレントになりませんかって言ってるんです」
「イヤです! このバカタレが」
逃げました。
「美佐、面白かったね」
「あんなことばっかりやってると、志保里、そのうち殺されるよ」