演劇部バレンタイン公演-6
葵君の話しを聞いて私達は声も出せなかった....私達の中で最も上手い美咲がこの時間まで練習している....その時改めて思った....やはり美咲は私達の顔....センターは美咲しかいないって....そして多分そう思っているのは私だけでないはずだ....
その後、私は今日美咲が悪口を言われていた事を話した....私の話しを聞いて、みんな唇を噛みしめていた....
「美咲は私達を手伝ってくれてるだけなのに....どうしてそんな言葉が出てくるのよ!」
「私に言われても知らないわよ!」
「美咲はそんな子じゃないって言ってくれたんでしょうね!」
「それは.....」
「まさか...言わなかったの?」
「私も言おうとしたけど....美咲がとめるから....なれているからいいって....」
「そんなのウソに決まっているでしょう!」
「私だってそれくらいわかっているわよ!でも美咲が....」
いつの間にか三人とも美咲の擁護にまわっていた。
「美咲先輩は誹謗中傷の鉾先が僕達に向かないようにしてくれてるんですよ....自分が一番目立つ場所に立った以上それが当たり前だと....美咲先輩は僕達のセンター北原美咲を演じてくれているんです.....」
私達は葵君を見つめた。
「僕はずっと...何で女装しなければならないんだって思っていました....でも....それが間違っている事に今気がつきました....僕が演じなければならないのは....女装アイドルではなく....女性アイドルだったんですよね!」
葵君はずっと美咲を見ていた....
「美咲先輩が自分で理想とするセンター北原美咲を演じようとしているなら....僕も....女性アイドル松岡葵を演じようと思います....女の子になりきろうと思います」
「葵君?」
「織田さん申し訳ありませんがボクの事を君付けで呼ばないで下さい!」
「自分の事を僕と言うのはいいの?」
「それは....」
「いいわ!あなたの事これから葵ちゃんと呼んであげるね!」
「お願いします...自分で言うのは、恥ずかしいのですが....自分の事をボクと呼ぶ妹キャラのアイドル松岡葵を演じようと思います....自分で言わないとわからないなんて....まだまだですね....ボクは....」
「自分で演じようとする目標があるだけましよ....私なんか何もないもの....」
「織田さんはそのままでいいんですよ!ボク達の頼りになるキャプテン織田麻里で!」
「えっ?」
「美咲先輩が言ってました。織田さんがいてくれるから自由に出来るんだって....美咲先輩は引っ込み思案なところがあって、新しい事に挑戦するのを躊躇ってしまうところがある。織田さんはそんな美咲先輩の背中を押してくれた....悩んでいる時は優しく声をかけてくれた....いつもみんなの事を気にかけてくれる....頼りになるキャプテンだって....」
「そうよね...麻里には感謝しているよ!私が責任をとるから思い通りにやりなさいって言ってくれる....私達そんな麻里に甘えていたのかもしれない....だからあんな事....」
「わかってくれたなら...もういいわよ!」
「でも...麻里も葵ちゃんもいいわね....演じようとするキャラがあって....私なんか何もないもの....」
「そんな事ないですよ!!」
私達は葵ちゃんを見つめた。葵ちゃんは私達のほうを見て
「美結先輩には歌唱力、ゆかり先輩にはダンスのキレ、詩織先輩にはダンスの表現力、ボク達のかなわないものを持っていますよ!!」
「葵ちゃん....」
「美咲先輩の悪口を言っていた人達を見返してやりましょう!ボク達はAKBのカラオケを見せるわけじゃない!ボク達が演じるのは朱羽24の公演なんですから!」
「朱羽24?」
「ハイ!朱羽高校演劇部員24人による公演だから....朱羽24....なんて....ボク達一年生部員が勝手にそう呼んでいるんですけどね!」
「いいねぇ!それ!」
ゆかりが叫んだ。