THANK YOU!!-1
5年生になって、何日か経った。
4月の中頃になると、運動会の準備で忙しくなる。
勿論、瑞稀や拓斗たちも人事ではない。
むしろ自分達の方がよっぽど忙しい。
何といっても、運動会の審判を二人でやることになっている。
何故か、ほかの5年生のクラスから審判希望者が居なかった。
6年生は勿論いるのだが、この人たちも忙しい。
審判は合計で8人しかいないのだ。
人数が少ない方がやりやすいと先生は言ったが、少なすぎて困る。
そのため、瑞稀と拓斗は5年生にも関わらず、6年生並みの働きをしなければならなくなってしまった。
放課後は、残ってパソコン室でルールブックの作成。
昼休みは、6年生と打ち合わせ。
運動会は5月の第一土曜日。
本当に急がなくては、間に合わない。
審判がルールブック等を完成させなければ、ほかの係が動けないのだ。
しかも、ルールブックを作るのは下級生である5年生の役目。
といっても、6年生が事前に決めた種目別のルールを書いた紙を見ながら、
パソコンで打ち込み、印刷して冊子にして先生の許可を貰って、提出。
この流れが、本当に大変なのだ。
「八神・・コレ、どうだ?」
「ん〜、ちょっと待って〜・・」
二人してパソコン室のパソコンにかじりつき、手分けをして打ち込みをしている。
午前の部を拓斗、午後の部を瑞稀が担当している。
種目は午後の部が圧倒的に多いのだが、じゃんけんで負けてしまったのでしょうがない。
「よし。鈴乃、どれ?」
「コレ。こんな書き方でいいか?」
ちなみに、ルールブックは、簡単な文章にしなければならない・・らしい。
「ん〜・・・なんか、ちょっと強引な書き方に見えるのは気のせい?」
「・・・・・気のせいだろ。」
「今の間は何!?あ、絶対わざとだ!」
「しょうがないだろ。」
「何が!」
明らかに、箇条書きに書いたルールの紙の言葉に付け足しただけで、全く言葉の文法がなってない状況。
拓斗は頬を少し赤らめてそっぽを向いてしまった。
瑞稀はしょうがないな、と思いつつそんな風に拗ねる拓斗を可愛いと思ってしまった。
拓斗には言わないが。
「・・なんだよ。何で笑ってんだよ」
拗ねたように唇を尖らせた拓斗が、自分を見て笑っている瑞稀に気づいて、
恥ずかしくなり毒づく。
その瑞稀は悪びれもせずに、
「だって、拗ね方が可愛いし」
と言う。
そう言われた拓斗は、余計に顔を赤くさせて今度は不機嫌な顔になる。
「・・男に言う言葉じゃないだろ。」
「ハイハイ、とりあえず、手伝うから拗ねないでって」
服を引っ張って、拓斗の顔をパソコンに向けさせる。
拓斗は、盛大な溜め息をつきながらも、パソコンに向かった。
「で?どういう言葉がいいんだ?」
「とりあえず、言葉を言い換えて・・」
瑞稀は自分の頭に浮かぶ言葉の文章をいくつか拓斗に伝える。
それを聞いた拓斗は、その一つをパソコンのデータに打ち込んだ。
そして、瑞稀に向き直る。
「お前、すごいな」
「・・・へ?」
いきなりの褒め言葉に、なんと答えていいかわからなくなる。
というより、褒められているのかさえ分かっていない。
ただ、拓斗の顔を見上げて、目をパチパチさせているだけだ。
瑞稀の頭上に、大きな“?マーク”が浮かぶのが、目に見えそうだ。
「だから、こんな風にポンポン言葉とか文章が出てくるのが。」
「そ、そうかな・・」
自分にとっては、当たり前だったことを褒められると、照れくさくなる。
瑞稀の顔は、赤みが走った。
それを見られたくなくて、やや俯いてしまった。
「・・?ゴメン、俺、変な事言ったか?」
さて、この緩んでしまった顔をどうしようかと考えていると、
自分の頭上に、ちょっと沈んだような声が届く。
瑞稀は申し訳なさを感じて、勢いで顔をあげた。
「違うよ!・・そんな事、今まで言われた事無かったから、嬉しくて」
「・・そうなのか?」
まだ赤くなっている顔で笑って言葉を伝えると、拓斗は問いかけた。
その拓斗の問いに瑞稀は頷いた。