THANK YOU!!-4
「えー。瑞稀なら分かるってさ〜。」
「あのね。さすがに語尾付けるだけのセリフは覚えきれないって。」
「だいじょぶ!」
「何がだよ」
笑いを零した瑞稀は、いつの間にか自分の真正面に座っていた菜美が居なくなっていたことに気づいた。
「あれ?」
「どしたの?」
「いや、今ここに菜美いたよね」
「うん」
首をかしげる幼馴染みに、千晴は遠くに見える校門を指差す。
「なんか、あっち行ったよ?」
「あ・・そうなん・・っ!」
千晴が指差す方に視線を向けると、そこには、今校門を通ってきた拓斗に話しかけている菜美の姿だった。
それを見て瑞稀は思いっ切り顔を背けた。
「・・どうしたの?」
「・・いや、なんでもない。・・千晴って、去年3組だよね」
「うん?それがどうした?」
「・・菜美と、鈴乃拓斗って居た?」
おそるおそる聞いてみた。
昨日菜美が言ってた“またヨロシクね”、そして、拓斗が言っていた“3年の時に転校してきた”・・去年、二人は同じクラスだったんだろうと、簡単に察しがつく。
だが、こんなことを言う自分が信じられなくて、嫌になった。
「ゴメン、今の忘れて!」
「・・・ウチは別にいいけど・・瑞稀、大丈夫かい?」
「うん・・ちょっとおかしいんだよね。疲れてるのかな」
幼馴染みには、簡単にバレてしまうというのはこういうことか・・と納得しながら、
心の中でお礼を言いつつ、ボケてみる。
余計な心配は掛けたくない。
「瑞稀の場合、トランペット吹けてないからじゃない?」
「えー、原因それ!?」
それを理解しているからこそ、千晴も、深く聞かずに更にボケを重ねてみる。
そんな幼馴染みに有難さを感じた。
「瑞稀はトランペット命だもんね〜」
「命って・・」
苦笑しながらも、否定はしない。
本当に、トランペットが好きだから。
瑞稀は4年の頃、地域の鼓笛隊に入り、トランペットを吹いている。
母親を含めた兄妹が入っていた鼓笛隊でもある。
母親はバトンを回していたが、弟である叔父がトランペットを吹いていたのだ。
その発表舞台のビデオを見た瞬間、瑞稀は音楽に取り込まれた。
トランペットを吹いてみたい。
そう思って鼓笛隊に行って、実際吹いてみると楽しくてしょうがなかった。
それから瑞稀は時間があったり、学校が休みの土日は家から一時間くらいかかる練習場所の鼓笛隊の練習に参加して、トランペットを吹いている。
才能があるのかと言われれば、無い。
だが、楽しいので吹いている。
それだけで、充分だ。
夏休みに、舞台発表の大きな大会があり、鼓笛隊全員で頑張っている。
去年は、団体では賞を貰えなかったが、個人賞として、同じトランペットの友だちと、
ドラムの子が選ばれた。
瑞稀も、貢献できるように頑張っている。
そのことを知っているのは、家族と幼馴染みである千晴だけ。
「ま、明後日練習っしょ〜。だいじょぶ!」
「うん、楽しみなんだ!ありがと」
「いーえー」
そう言って笑いあった瞬間、8時のチャイムが鳴り、教師が昇降口の鍵を開けた。
このときを待ってましたと言わんばかりに、生徒が一斉に昇降口に向かう。
このときだけ、昇降口は、デパートのセール並みに混雑する。
人ごみな嫌いな瑞稀と千晴はすぐさま、昇降口から離れている花壇に避難する。
「毎朝嫌だよね、これ」
「も〜慣れちゃったけどさ〜」
そう言うと、二人は混雑が収まるまで花壇に避難していた・・。