第1章-5
「大分良くなってきた、ありがとう、こんなに優しい子は始めただよ」
「そうですか、よかったですね」
「ところで、二人はどこかの帰りかな?」
「はい、あたし達さっき講演会で、良いお話しを聞いてきたんです」
「ほう、講演会ねえ、その若さで感心だな、ところでどんなお話かな?」
初老の老人はこの若く可愛い少女二人に関心を持ったようである。
「(愛と、人の生き甲斐)というテーマだったんですけど、それが良くて
感激したんです、それであたし達にも何か出来ないかなって・・」
「それは立派な考えだね、今のこの殺伐とした世の中で、感心だねえ」
「あ、そうだお姉ちゃん」
「え、何?沙也香」
「このおじさんは今日みたいに、又いつかは転んだり不便なことがあると思うの」
「うん、それで」
「何か私達で役に立つことあるんじゃないかって思うのね、お手伝いとか・・」
「あぁ、なるほどね、頭良いねえ、沙也香」
「えへへ、それほどでも」
「あの先生も言ったよね、何事も小さな親切から実行しなさいって」
「そうよね、あたしもそう思うわ」
「と、いうわけで、おじさまは困っていることありませんか?」
このピチピチした少女の急な提案に老人は始め驚いていた。
(しかし、この老人の心の中に次第に或る野心が芽生えてきたことに、
純で無垢な少女達が知る由もない。)
その善意ある少女達の提案により、その結果がどんなことになるのか、
老人の勝手で、よこしまな気持ちが
可憐で美しいこの姉妹の素直な気持ちを変えてしまうことになるとは、
誰もが予想できただろうか・・・
「私はね、そのマンションに住んでいるんだが老人専用でね、
そこには私のような男の人が何人かいるんだが、
男ばっかりだし退屈でね、
出来たらお姉ちゃん達に、お話し相手になって貰えると助かるんだが」
「はあ、そうなんですか、話し相手って、どんなことをするのでしょう」
「そうだね、あんた達のことでも、何でもいいんだよ、学校の話とか・・」
「そういうことですか、それなら私達でできるかも、そうよね沙也香?」
「そうね、お姉ちゃん、私達が本を読んで上げても良いしね」
「うん、そうね、それでいいですか、おじさん」
「おお、それでけっこう、ありがとう、みんな喜ぶよ」
そのマンションは男性専用で有料の老人ホームだった。
各人には買い取った個室をもっており、
それぞれに共通のスペースがあり、和室や洋室もある。
そこでは時間を持て余した老人達で、囲碁や将棋又はトランプ等
好きなことをして時間を過ごしていたが、彼等には何かが物足りない。