第１章-1
秋が深まり
所々に立つ大きな街路樹は、枯れた葉が暗赤色の秋の色に染めていたが、
少し寒い風が吹いてくると、その葉は揺れながら枝から離れ、
そよそよと地上へと舞い落ちる。
その葉は、まるでピエロが戯けているように、陽気に踊りながら、
道端にヒラヒラと落ちてくるように見える。
それが道の上に落ちて、重なりながら枯葉の洒落た絨毯を作っていた。
今、二人が歩いている少し傾斜したその道には、
確実に寂しい秋の気配が忍び込んでいる。
濡れた枯葉を踏みしめながら、姉妹でこの道を歩くのは久しぶりだった。
なにやら二人は歩きながら顔を見合わせ、
楽しそうにヒソヒソと話し込んでいる。
心地よくザクザクと踏む葉の音を聞きながら、少女達の足は軽やかである。
美しく若い女性はどこから見ても心地がよい。
その溌剌とした若さは何よりも輝いている。
その日は
市民会館で、午前中の或る講演会があった。
その会場には、講演を聞きに来る人達で結構混んでいた。
講演の内容が、今の世相にマッチしているからだろうか。
それが、この素直な心優しい姉妹には良い勉強になったようである。
会場からは、姉の（美咲）と妹の（沙也香）の他に、
聞き終えた多くの人達が、ぞろぞろと会場から出てくる。
しかし、あの小さな会場から、こんなに多くの人が出てくるとは驚きである。
その日のテーマは「愛と、その生き甲斐」だった。
内容は、（愛と、人の生き甲斐とは何か？）というテーマであり、
時々テレビに出ている女性で、著名なコメンテーターが記念講演をし、
その他にゲストも絡みながら、それぞれ自分の思っていることを語り、
聴衆に様々なことを想起させていた。
その中ではパネル・デスカッションという時間を設け
質問者は熱心に、その思いをコメンテーターに問いかけていた。
彼女は、言葉を選びながら、一つ一つについて、解説をしていた。
そして、熱い熱狂の中で講演は終了した。
講演会は無料であり、２時間ほどだったが好評だった。
今のこの殺伐とした世相には、こういうテーマはタイムリーであり、
考えさせる内容であり、好評だった。
舞台からコメンテーターの女性が挨拶をし、
プロポーションの良い身体をひるがえして退場するとき、
姉の美咲は熱い眼で彼女を見つめていた。
美咲は彼女の熱狂的なファンだった。
市でもそういう講演を時々計画しているようであり、
市民サービスに怠りない。
その日は休日だったので、姉妹はそれを聞くことが出来た。
それは、たまたま姉の美咲がその講演があることを知り、
妹の沙也香を誘ったのである。
この姉妹は、とても仲が良かった。