名探偵 鳴海清隆─新たな人生の始まり─ 2
玄関を開けると妻が出迎えてくれた。妻・まどかも警視庁の刑事であり多忙な日々を送っている。
「お帰りなさい。歩の容態はどうだった?」
「善くはないさ。だが、火澄のお陰もあって、少しだが進行を遅らせる事が出来ているそうだ」
玄関から広いリビングに入り、一息つく。
こんな高級マンションに暮らしているのも清隆が十代の時に稼いだ金が大量にあるからである。
その気になれば一生遊んで暮らせるだけの金があるのだが、何故か刑事をしている。このように謎の行動をすることも少なくない。
「歩……」
ため息のように呟いて、清隆は独りごちた。歩には徹夜をするななどと言っていたが、実は清隆のほうも似たようなものである。
「疲れてるの?」
ふいにまどかに顔を覗かれて、清隆は面食らったように目を丸めた。
「ああ、いや。大丈夫さ」
「それならいいけど……。あ、ビーフシチュー食べるでしょう?」
今日のは自信作なのよ、と嬉しそうに台所へ戻る妻の姿を見ながら、清隆は曖昧に笑んだ。
知らないはずはないだろうに。気にならないはずはないだろうに。
あくまで清隆の立場を重んじてくれるまどかに、清隆は内心とても感謝していた。
*
「おはようございます」
警視庁に出勤するたびに、毎朝感じる視線にも慣れたつもりだった。
かつての天才刑事の突然の失踪。そしてまた突然の復帰。
好奇の対象にならないほうがおかしい。
しかし、ここ数日の視線にこもるのは、そんな好奇だけではなかった。
同情と、訝しみの入り交じった視線。
その原因は、数日前、鳴海清隆宛に送られてきた一通の手紙にあった。
茶色の封筒に入れられたそれ。ルーズリーフと思われる罫線入りの用紙に、明朝体のワープロ字でこう綴られている。
『鳴海歩は生きているべきではない。ろは』
その簡潔な文章だけでも、清隆には解った。
これはなにかの冗談でも、脅迫でもない。殺人予告だと。
スパイラル ―推理の絆― 二次創作作品
『終末に抗う者の宴』