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ARMORED WESTERN
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ARMORED WESTERN 3


スミスは迷わず…表示されたどのガイドラインにも、従わなかった。
彼はその場を一歩も動かなかった。悠然とたたずみ、降り注ぐ弾丸に身をさらしていた。
とはいえ、何もしなかったわけではない。

ニフの走査によって男たちの銃の種類が判明した瞬間、彼は指一本をかちりと曲げていたのだ。何にも触れてはいない。曲げただけだ。
それでスイッチが入った。
男たちの目には何の変化も見いだせなかったが、スミスの鳩尾あたりを中心に、全身を覆うようにガスが散布された。
空気濃度が上がることでわずかに屈折率は変わったが、人間に判断できるレベルの変化ではない。

遊性金属。永久機関の研究の過程で、英国人が発見した物質である。
ガス状に拡散する特殊な金属分子だった。非常に不安定な物質で、高圧容器から通常環境下に解放すると、速やかに消えて失せてしまう。
だが他の物質と激しく衝突したとき、その衝撃のエネルギーで近くの分子を取り込むように結合し、固体に変化するのだ。
その変化もほんの一時のことで、生成された金属片は、地に落ちるより早く分解して見えなくなる。
だが、その一瞬の硬度は高かった。衝突時の運動エネルギーが大きいほど、結合する分子の数は多く、結合は強固になる。理論上、これを貫通できる物質はない、とされている。
英国のとある会社が考案した、無敵の盾であった。

30発の貫通弾はことごとく不可視の壁に阻まれ衝突したその場で慣性を失った。
着弾の衝撃で破裂した破片すらも、スミスの体まで届かず、力無く落下する。

スミスの網膜上には実際の光景に重なって、空間の座標図と数列が並んでいる。彼はガンベルトから銃を取り上げ無造作に狙いをつけた。
実際には存在しない光点が、着弾ポイントを示す文字とともに、最初の男の額にともった。
彼の銃は、英国ではすでに博物館の展示物と成り果てた、米国製のシングルアクション式リボルバーだ。開発の後れた米国西部ですら旧時代の遺物となりかけている、黒色火薬の弾薬が装填されている。
スミスは引き金を引いた。煙が噴き出し、視界の隅に表示される銃弾の初速は、わずかに毎秒210キロメートル。
その程度の速度では、遊性金属の結合を誘発するだけの衝突エネルギーは生み出せない。
彼の弾丸だけは、不可視の壁を素通りするのだ。
人を殺すだけならば、この遅くて柔らかな鉛弾で足りる。

一度の散布では、『無敵モード』の持続時間は3秒足らず。
彼が5度引き金を引くには充分な時間だった。

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