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ランドランド〜キラの旅立ち〜
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ランドランド〜キラの旅立ち〜 10

 何でもないことだ、そう言い切ろうとしたキラを、卿は遮った。
 そして静かな口調で、誰かに聞かせるともなく呟いた。
「あいつも…私も、来たるべき日が来たということだ」

 キラは口を閉ざして何も言わなかった。言えなかった。
 普段、家族の前では大人げないはしゃいだ男である父の、見せたことのない顔に、彼はひたすら戸惑っていた。
 自分の浅はかな提案が、何かを揺り動かしたことを、彼は感じずにいられなかった。



「信じられん。ありえねえ…」
「何回言ったら気がすむんだよ。いい加減腹くくれって」
 ぶつぶつと隣で呟くクラレイに、キラはあきれてそう言った。
「顔に似合わず度胸ねえんだな…」
「だからあんたは非常識だって言ってんだよ! 何のわけもなしに王様の前に引きずり出される一般人の身にもなってみろ」
「一般人ってほどじゃないだろ、お前だって。王立アカデミーに通ってんだから」
「遠い親戚が昔、爵位持ってたってだけだ。うちは先祖代々由緒正しい一般人だよ」
 小声で言い合う二人の間に、コホン、と控えめな咳払いが割り込んだ。
 二人はぎくりと硬直した。巨大な扉の前に、歳のいった女官が立っている。彼女は彼らの訪問を、室内の人物に告げに行っていたのだ。
「王陛下がお待ちです。入室を許可いたします」
「はい…」
 すました声音の上級女官に、キラは大人しく頷いた。
 入室する彼女に続こうとしたキラは、連れが立ち止まったまま、動いていないことに気付いた。振り返ると、クラレイの顔色は、最前よりも明らかに白くなっていた。
「何やってんだ、クラレイ」
「ちょっ…本気かよ、俺やっぱ帰、」
 緊張に舌をもつれさせながら、踵を返そうとするクラレイの腕を、キラは慌てて掴んだ。
「バカ、今さら帰れるか! いいから来い」
 いらだたしげにこちらを見る女官をちらりとうかがいながら、彼は言った。
「びびるようなことねえんだって。本気でただの遊び相手だ。悪さしたら叱ればいいし、手をあげない限りは、泣かせても別に逮捕されやしねえから心配するな」
 彼は最後に、小さくこう付け加えた。
「…泣かせるのは、あんまり勧めないけどな」


 案内の女官は王の私室を素通りし、バルコニーから王のために設えられた庭に出た。
 芝生を張りめぐらせた完全な人工の庭ではあるが、小川に池、木々に植え込みの花、小さな丘が実に自然な形で整えられている。池には魚が、木々には小鳥が放し飼いにされていた。
 そして数々の遊具だ。ブランコ、すべり台、トンネルにジャングルジム、砂場…
「あー!キラ!」
 砂場から、カン高い歓声が上がった。通り過ぎかけた視線を、キラは慌てて砂場に戻した。あまりに背景の砂と同化していて、一瞬見落としてしまったのだ。

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