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ランドランド〜キラの旅立ち〜
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ランドランド〜キラの旅立ち〜 11

 砂場はよく見ると水浸しで、小さな泥沼と化している。
 小さな子供が、その泥の中から手を振っていた。手も顔も裸足の足も、仕立ての良い服も泥だらけにして、うれしそうに笑っている。
 右後ろでクラレイが目を丸くし、左後ろで女官が苦虫を噛みつぶした顔をしているのが、キラには手にとるようにわかった。
「今日は泥遊びですか…」
 もっと汚れてもよい服を着てくるんだった、とキラはがっくりうなだれた。とはいえ登城するのに、そうそう気楽な格好は許されない。
 そう、後悔する間にも、子供は泥をまき散らしながら、彼の方に駆け寄ってきた。
「キラ、こっち!抱っこ!」
 かわいらしい笑い声を上げて、キラの足にまとわりつく。もちろん遠慮なく、泥のついた手でぺたぺたと一張羅に触りながらだ。
「…俺、王様って、もっと上品な遊びしてるのかと思ってたよ」
 クラレイが、あきれたようにそう言った。キラは内心で思い切り同意した。
そうしながら、子供の泥だらけの顔をまじまじと見つめる。亜麻色の猫毛、ぱっちりと見開いた大きな茶色の目、ふっくらと愛らしく整った色白の面差し。人懐こい笑顔と振る舞い。
 彼こそが炎の国の元首、御年五歳の幼君エインゼルタインであった。

「……あ」
 クラレイの声で、はじめて幼王は無我夢中の狂喜から醒めて、見知らぬ人物までがそこにいることに気付いたらしい。はっと目を見開いて、棒立ちになった。
「キラ……これ、だれ?」
「おい」
 と、キラは自分で答えるかわり、クラレイに自己紹介のタイミングを合図したが、あいにくと、クラレイに口を開く機会は与えられなかった。
「カワイイ。でもコワイ」
 エインゼルタインが、えらく真面目くさった顔つきと口調で、そう評を賜ったのが一足早かったのだ。
「か……かわ……っ」
 クラレイが口をパクパクさせて、どもった。もちろん、「カワイイ」発言に甚大なるショックを受けたのだ。相手が五歳児でも一国の主でもなかったら、思いきり睨みつけるか、足音荒くその場を去っていただろう。
 が、実際には、相手は御年五歳の国王陛下なのだから、如何ともしがたい。クラレイは、今度は緊張とはまったく違う意味で固まった。

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