ランドランド〜キラの旅立ち〜 45
なにがなんでも拒絶しようという意志がクラレイの態度を変えたのだということが、ようやくキラにもわかった。
しかしなぜ、そこまで強固に拒むのか、それはわからない。まして、何を拒むのかは――
やりとりを聞いているかぎり、二人は口には出さぬ「なにか」を知っているに違いない。
クラレイの父が開戦前日エーキにいて、だから戦線とは関わりがなかったはずだという、その記録が覆される「なにか」。クラレイの父がシノム−パドーラ戦線で裏切りをおかしたという、その風説を否定しきれなくなってしまう「なにか」。
――それが何だというのか、二人は互いに承知しながら、相手の口から聞き出そうとするばかりで、自分は頑としてその「なにか」を明かそうとしないのである。
たしかにこれは対抗、いや、もはや勝負といってよかった。
そして、何のはずみか、緊張にみちた静寂が場を満たした、そのとき。
「あ〜ああ〜ぁ」
悲鳴とも、残念そうな呻きとも聞こえる幼児の声とともに、ガラガラ、ザザザーッ……という音、さらにはガシャン、パリン、などという音までが続いた。
「う…っわあー、へ、陛下……」
キラはそれきり、絶句した。アイアダルとクラレイのほうは、いま夢から醒めたみたいにはっとして、〈その光景〉をぼんやりながめるばかりだ。
が、二人はともかく、キラは見てはいたのだ――視界の端っこにではあるが、エインゼルタインがありとあらゆる菓子類を塔のように高く積み上げて、ぐらぐらとしてきてなお、限界に挑んでいたのを。
しかし一瞬、完全に場の緊張に気をとられ……まさにその瞬間、バベルの塔(などというのはもちろん、キラが思ったことではないが)は崩壊した。
「あ〜あ」
と、幼王はもう一度溜息?をついた。
「せっかく、高いのできたのに。みんなにも見せたかったのになぁ」
「見てました、見てましたよ、陛下」
キラは苦笑しつつ、ついそうなだめて、
「でも、お菓子はそうやって遊ぶためのものじゃないんですから。だから、嫌がってお皿の上に戻ろうとしたんでしょう」
エインゼルタインが口を尖らせる。
「変なの。お菓子は生き物じゃないんだよぉ」
(しまった、そういうことに気付くお年頃か……めんどくさっ)
キラのこの台詞は、あくまで胸の内だ。
「とにかく、そういうことしちゃダメなんです。食べ物はパンの一かけまで粗末にしちゃいけないって、この間一緒に読んだ絵本にも、」
「あーっ!」
軽くお説教態勢に入ったキラをよそに、王がいきなりあわてた声をあげた。
意外と胆の据わった子供であるエインゼルタインが珍しく血相を変えたことに驚いて、キラは彼の視線をたどった。
視線の先にいたのは隣に座るアイアダルだった。正確には彼女の腕のあたり。
キラはようやく何事が起きたのか飲み込んだ。