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ランドランド〜キラの旅立ち〜
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ランドランド〜キラの旅立ち〜 44

 彼がしばし沈黙したのは、アイアダルの問いが彼の心中におこした動揺の静まるのを待つため……そして、次に口に出す言葉を、内容にふさわしく整えるためでもあったのだ。
 クラレイが内心の動揺をおさえこんだ瞬間は、キラには奇妙なまでにはっきりわかった。一度風に波立った水面が、ふたたび鏡のようになる様を思わせて、クラレイの表情からも、そのときあらゆる波――感情が消えたのだ。
「なぜ――?」
 クラレイは、アイアダルの質問を鸚鵡返しにした。感情はまったくうかがえないのに、たしかに唇の両端はこころもち持ち上がった、異様な表情で。
「なぜ。……それを、どうしてわたしに尋ねられるのです?」
 表情と同様に、何の感情もこもらぬ声で、クラレイはアイアダルに問い返した。
 アイアダルはただ微笑んで、彼を見返した。かならずしも答えを求められているわけではないと、承知の様子だ。
 不意に、キラは、まったく同じ人間が二人、目前で話しているような錯覚をうけた。
 そして、気付いた――クラレイがさっきの一瞬、表情と声の調子を変えてから、一種アイアダルと似通った雰囲気を漂わせている。
 が、もちろん、クラレイはアイアダルとは違う。だから、雰囲気だけは似通ったものになったとはいえ、二人の向かい合った様子は、
(対抗、してる……?)
 ようにも、キラには見えた。
 そのキラの疑いが、勘違いでもなんでもなかったのは、続くクラレイの台詞が証明した。
「あの資料――開戦の前日、父がエーキにいたという資料がそれほどたしかなら、そしてそれが根拠となって『風説』を否定できるなら、わたしといわず、この国の大多数の者が戦後ずっとそうしなかったのこそ、『なぜ』というべきではありませんか? 殿下におかれましては、王国の臣民がすべて、そのようなことに頭の働かぬ輩とは思われましょうか?」
 無礼講ということになっているとはいえ――クラレイの台詞はあまりにきわどいものであった。キラは聞いていてひやひやしたが、言った当人も、アイアダルも、実に平然たるものだ。
 アイアダルが、静かに言った。
「ほかの人のことは、いまはいいの。あなたの考えを聞かせてほしいのです――クラレイ」
 名を呼ばれても、今度はクラレイは揺らがなかった。
「……と、おっしゃるということは、殿下はすでに余人の考えをご存知なのですね」
「どのように考える者が多いかということについては、多少知る機会もありました」
「わたしは特別な人間ではありません。考えも、ほかの者と大差はないでしょう」
 「話しなさい」「話す気はありません」という――これはつまり、そういうやりとりだった。

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