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ランドランド〜キラの旅立ち〜
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ランドランド〜キラの旅立ち〜 42

 ――そう、まさにそれゆえに、彼は戦線と彼の父との関係をとくに尋ねたのだし、また、ガラタクル卿の作戦決行日の前だおしの記録があったことに愕然としたのだった。
 それでは、この本を書いた人物は、まだ当時は国に提出されていなかった記録をどういう手段でか読んだのか――あるいは、もっとありうる可能性だが、戦線の内部事情をよく知る立場にあったのだ。
 もちろん、いずれにしろその情報をもらすのは機密漏洩の罪にはなるだろう。裏通りという場所も、著者に公の目にふれてはまずいという意識があったことがうかがえる。
「それは――なんという者が記した本なのです? 書名は?」
 アイアダルが訊いたのは、彼女も同じことを考えたらしい。
「書名は『ウォルフ翁雑記』だったと思いますが、裏通りで売ってあるような本を本名で書いている者などいませんよ。内容が危険であればあるほど。一応、『ラドゥ・ウォルフ』とありましたが……」
 それも、仮名にちがいない。
 が――もうひとつ、その書物から明らかになるのは、
「……それでも、裏切りの根拠に、それは事実を挙げていた、ってことですよね」
 暗然と、クラレイが指摘した。
「さあ、わたくしは読んだことがありませんから……」
 アイアダルが首をかしげた。
「でも、そのようにおそらくは政治的理由で表に出せないものも、裏でなら出回っていることもあるのですね。しかも、あなたが読んで、『そうかもしれない』と思ってしまうほど、そこでの論は説得力を持っていた……と」
「根拠にさえ、間違いがあってくれれば――と思っていました」
 が、まだ公式のものとして承認されてはいないものの、根拠たる記録は、あたうかぎり確固たるものとしてあらわれたのだ。
「ということは、やはり……」
「なるほど」
 アイアダルは、ふと思案するように口元に手をやった。
 考えごとをするときの癖なのだ。キラは思い出してなつかしさを覚えた。幼いころから変わらないこともあるものだ。
「…キラ。あなたはお父様にその、脚色された方の読本の内容について訊ねたことはあって?」
 前触れもなく矛先を向けられ、キラは慌てた。
「え、いや…いいえ。聞く必要ないと思っていたので。あんなのでたらめです」
「そうでしょうね」
 とっさに否定したキラに、彼女は頷いてみせた。
 答えはわかっていたとでも言いたげな様子だった。彼がでたらめと言いきれる理由もまた。
「よくわかりました。…先に一つ、記録の話をしましょう。作戦決行の前日に開かれた会談の記録です」
 彼女の語り口調に変化はない。ただ、クラレイは何かを察したように、勢いよく顔を上げた。
「議事録によれば、ファンタン・レジャンはその日、セディン…ジークランド外務卿の供としてエーキにいました。…まあ、大丈夫なの。キラ?」
「おい、大丈夫か?」

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