ランドランド〜キラの旅立ち〜 5
「同情…」
「同情されるのまでいやだなんて、言うなよ」
からかいまじりの言葉に、同情などいらないと言おうとしていたキラは、ぐっとつまった。
「うらやまれるのも、比較してバカにされるのも、同情されるのもいやだ、じゃあただのわがままみたいだろ」
クラレイは、壁に押しつける手を離した。
擦り傷のついた顔をこすりながら、何も知らないくせに、とキラは思った。だが、口にはできなかった。自分でも、その台詞はあまりに幼稚すぎるように思えたからだ。
彼は、彼の怒りが正当ではなく、自身の未熟からくるものだと、クラレイに見抜かれるのをおそれた。
彼は小さくこう呟いた。
「…何で同情なんか」
そうだな、とクラレイは言った。
「そう。あんたのそれが、ほんと、あんたにはどうしようもないことだからさ」
キラは顔を上げた。
「英雄ジークランド卿の子で、王に仕える将軍位にある方の名を呼び捨てできる。……もう一つ。自身に何の身分もないのに、王その人が非公式に謁見する立場にいる」
キラは驚いて目を瞠った。
その顔に、逆にクラレイは驚いたようだった。あきれたように言う。
「知られてないわけないだろ。あんたが王の一番のお気に入りだって」
王立アカデミーに通う貴族の子息が、年若い王の学友として王城に召し出されるのはよくあることだった。
ジークランド家は代々王政議会で発言力のある立場におり、王家との私的なつながりも深い。キラも幼いころから王の一家とは面識があり、クラレイの言ったとおり、現王の友人として非公式に呼ばれることもあった。
だがあくまで非公式にだ。政治には一切関わらないし、父親やガラタクルの意向とも無関係。そう決められていた。『お気に入り』で括られるには、キラの方にメリットがなさすぎる。
とはいえ、王に目通りなど一生かなわないかもしれない者にしてみれば、そんな事情はささいなことだ。
「そんなやつが、普通でいられるはずがないよな」
「普通って何だよ」
顔をしかめたキラに、クラレイはあっさりと言った。
「あんたの普通と俺たちのは違う。世界が違うってことだろ」
「…世界」
「他の奴らにあんたはわからない。あんたにも俺たちはわからないし、理解する気もないだろ。あんたはこっち側では、疎外されてなくちゃおかしいんだよ。違いすぎて、遠目に見る七光りの光しか他人の目には映らない。本質なんか見えるわけがない」
そう言い切ってから、クラレイは首をかしげて訂正した。
「もっとも、あんたが表向きだけでもいい顔してりゃあ、他の奴らも表向き疎外してないふりくらいしてくれる。そこんとこ、あんたは不器用なんだな」
キラは唇を噛んだ。
「それじゃあ…そんなのは…」
「何の解決にもならない?」