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ランドランド〜キラの旅立ち〜
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ランドランド〜キラの旅立ち〜 4

「今日の午後の特別講義が、さ」
「あー」
 クラレイは、何か思い当たったようだった。何だ、と肩をすくめて笑う。
「何だとはなんだよ」
 バカにされた気がして、キラは顔をしかめた。
「今回の招待講師、ガラタクル卿だったな。東方大戦の英雄。隻腕隻足の猛将」
 ぴく、とキラのこめかみが攣る。
 彼の反応を気にも留めず、クラレイは続けた。
「ジークランド卿の大親友。だったっけ? 当然、大親友の息子のあんたには馴染みの人物だろうな」
 キラは暗く目を伏せた。
 クラレイの言う通り、アリエル・ガラタクル卿は彼が生まれるずっと前から彼の父の親友だった。
 当然、卿はキラのことを生まれたときから知っている。妻を早くに亡くし、子供のいない卿は、彼のことを我が子のように慈しんだ。
「その英雄に特別扱いされるところを、あんたはアカデミーの連中に見られたくない。見られれば、あんたはあんた自身の本質でなく、英雄の息子としての自分を誇示することになるから。…そんなとこか?」
 すらすらと語るクラレイに、ほんのわずか殺意が湧いた。
 完全に図星だったからだ。言葉にしてしまうと、なんとも陳腐で稚拙。だが彼にとっては深刻な、まさしく青春の心理だ。
「怒ったのか? 事実だろ?」
 黙って睨みつけるキラに、クラレイはなだめるように両手をあげた。そしてこう言った。
「俺と同じ理由じゃないか」
「えっ?」
 意外な言葉に、キラは思わず聞き返した。クラレイは小さく笑みを浮かべていた。
「知らないか? 隻腕の騎士が、右足を失った戦いのこと」
 キラは戸惑った。話をすり替えられたように感じたのだ。
 どういうつもりかと怪訝に思いつつ、彼はとにかく首を横に振った。
「アリエルはそんなこと、話したことはない。父さんもアリエルも、オレに戦争の話はほとんどしないんだ」
 ふいに、クラレイの表情が変わった。困ったように、苦く笑う。
「?」
「アリエル、か」
 どこかあきらめに似た口調で、彼はそう繰り返した。
 そして、憐れみとしかとれぬ表情を浮かべた。 
「あんたほんとに、アレだな。特別なんだな」
 かっと、頭に血が上るのをキラは感じた。
 彼の言葉と表情は、キラが彼にそこはかとなく感じていた共感を、一瞬にして無にするものだった。
「お前…っ」
 掴みかかろうとした彼から、クラレイは軽く身をかわした。
 避けられて壁に突き当たったキラは、すぐに振り返ろうとした。だがかなわなかった。クラレイは彼の後ろ髪を掴むと、壁に顔面を押しつけたのだ。
「怒るなよ。同情してるんだ」
 そうつぶやくクラレイの声音は、やけに静かだった。

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