PiPi's World 投稿小説

ランドランド〜キラの旅立ち〜
その他リレー小説 - ファンタジー

の最初へ
 37
 39
の最後へ

ランドランド〜キラの旅立ち〜 39

 ただ一瞬アイアダルに向けられた双眸が、彼の声なき悲憤をつたえるように、はげしくくるめいた。
 おだやかに、アイアダルはその瞳をのぞきこんで、
「ただ、人の口伝えに伝わってきた話は偏っていることも、間違っていることも多い。それを、そのまま頭から信じてしまうのは愚かだわ。――でも、そこにまったくヒントになるものがないとは言い切れない以上、それについて知っておくべきだし、考えてみるべきだと思うの」
 クラレイの眼の異様な輝きが、消えた。
「……一度だけ、こんなことを言われましたよ」
 落ち着いた口調で、彼は話しだした。
「アカデミーで、以前いっしょだった――いまは、飛び級して、ふたつみっつ、上の学年にいるやつに。『おまえだろ、ガラタクル卿を裏切って、〈隻腕の猛将〉に〈隻脚〉ってのまでつけくわえちまったファンタン・レジャンの息子って』――と」
「それで?」
「それだけです。一番具体的に『裏切り』の内容を、面とむかって言われたのは」
 一息ついてから、ちょっと笑った。
「それで、そのときは十分でしたけど」
「ガラタクル卿の経歴を調べたのですね?」
 と、アイアダル。
「ええ――シノム‐パドーラ戦線のことは、すぐ分かりました。公式の記録にはまだまとめられていないものの、大戦に関する書物はそれこそ星の数ですし。中には、もっともらしく実録風にしつらえた、大衆向けの読み物もありましたよ――もっとも、これは図書館なんかには置いていなくて、裏通りの露店やなんかで二束三文で売ってるやつですが」
「そんなものまで、調べたのですね」
 いいながら、しかし、アイアダルがその内容を話すよう求めているのは明らかだった。キラとクラレイは、思わず顔を見合わせている。
「えーっと」
 考えている様子をとりつくろって、キラはそんな声を発したものの、すぐに堪えきれなくなって噴き出した。
「そ、その、ですね」
 あわてて説明しようとしたが、やっぱりそこで笑い出してしまう。
「……殿下がお気になさっておいでのことだけ、先に申し上げますと」
 クラレイが、こちらはなんとか笑いの発作を押し殺し、震える声でいった。
「父は、その中で交渉にあたった立場を利用してタルバタナと結びつき、ホムラ側の情報を流した、ことになっていました」
 それの、どこが可笑しいのか――というように、アイアダルは首をかしげた。
「で、決戦の日には、ガラタクル卿を偽の情報で――敵の小隊のなかに、なぜかタルバタナ王が身をやつして戦況をうかがっている、なんていうとんでもない話で――おびきだして……こんなの、口に出すほうも出すほうなら、信じるほうも信じるほうでしょう、だからもうこれだけでとんでもない話といえばそうなんですが」
「……」
「そして、おびき出したあと、ガラタクル卿の部隊を殲滅するために、タルバタナの部隊が三倍もの数で攻撃をしかけて」

SNSでこの小説を紹介

ファンタジーの他のリレー小説

こちらから小説を探す