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ランドランド〜キラの旅立ち〜
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ランドランド〜キラの旅立ち〜 37

「…ありがとうございます、陛下」
 さすがと言うべきか、彼女は動じず、にっこりほほえんだ。…ほほえむ前にほんの一瞬、表情が停止したのは、おそらくキラたちの気のせいではなかっただろう。
「でも陛下、今日はキラがお客様ですから、姉様より先にキラに勧めなくては。カミル先生にそう教わったでしょう?」
「あっ、そうか」
 マナー教師の名を出した姉に、王はぽんと手を打った。あわてたのはキラだ。
「ちょっ、殿下…!」
「国王が年長の王族より先にすすめるのは、招待客が他国の王族の場合だけだったような…」
 ひどい、という言葉をキラが必死に飲み込むと同時に、ぼそりとクラレイが呟く。だが言い終わるより先に、アイアダルは同じほほえみのまま、
「何か?」
と、しとやかなしぐさで小首をかしげた。
 クラレイは、キラの助けを求める視線を完全に無視して、何でもありませんと頭を下げた。
「? じゃあ、はい、キラにあげる」
 一連のやりとりなど知らぬげに、エインゼルタインは悪気なくカップをキラの方によこした。
「ありがとうございます、陛下…」
「ウラレイも。おやつたべていいよ」
「はい。ありがたく頂戴いたします、陛下」
 うやうやしく頭を下げ、それでも手をつけるのをためらっていたクラレイだが、王に促されてようやくフォークを手にとった。一方キラは、カップを持ち上げたまま覚悟を決める時間を稼いでいる。
 アイアダルはしばらく二人の様子を眺めてから、こう切り出した。
「召し上がりながらでけっこうよ、お話を続けましょう。…キラ、ちゃんとついてきていて?」
「うっ」
 こんな不意打ちにしれっと頷くことができれば、キラの世間での評価ももう少しは上向くのだ。だが、ここでうっとうめいてしまうのが彼だった。
 弟王に対するのと少しも変わらない穏やかな語り口は、内容にいまいち実感がもてないキラにとってはひたすら音として耳に心地よいばかりで、見かけだけはまじめにぼうっと聞き入っていたのが、聡明な姫にはお見通しだったらしい。
 彼女はため息をついた。
「アカデミーの中等から、大戦初期の戦場を題材にした戦術立案の実習が取り入れられているはずよ。シノム-パドーラ戦線はまだ協議中ですけれど、大戦の概要くらいは知っていなくてはね」
「おっしゃるとおりです…」
 クラレイのあわれみの視線が痛い。
「教育卿に話しておきます。次の委員会ではアカデミーの教材の改訂が議題にあがっていましたから、ちょうど良いわ。学生の声を容れることも必要ですものね」
 他の民間の学校とは違い、王立アカデミーの運営は、その名の通り王、すなわち国家教育院の直轄事業にあたる。カリキュラムも、教育卿自らが協議の末詳細をまとめ、最終的には王が認可を授ける。貴族やその推薦を得た優秀な子供だけが入学を許され、将来の官吏候補生として教育を受けるのだ。

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