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ランドランド〜キラの旅立ち〜
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ランドランド〜キラの旅立ち〜 35


 征東元帥の権限で、卿は各地の兵力を密かに砦に集結させていた。少数ずつ、目立たぬよう森林地帯を経由し、あたかも兵の交代要員のように見せかけながら。
 もともと兵力で勝っているとはいえ、戦線においては攻勢側が不利なのが常だ。実際、城塞が奪われた直後の第一次攻勢では、倍以上の人数を投入しながらも結局奪還はならなかった。このときは必ずしも奪回が目的ではなかったとはいえ、城塞の守備に自信を与えてしまったことには違いない。
 今回は、慎重に進めねばならなかった。
 シノム-パドーラ戦線を主戦場にという計画を、敵に悟らせないために、炎軍内部でも情報統制がしかれた。征東元帥がいることも半ば伏せられ、西側の同盟国家グレンから派遣された援軍は、この戦線以外の戦場に振り分けられた。
 六月二十七日までには、本陣と近辺の山間に潜ませた兵の数は、三万に達していた。内訳は山岳の地形のために歩兵に偏ってはいたが、数字の上では炎陸上軍全軍の、実に三割強である。
 記録の上ではよく晴れた、月のない夜だった。

「知ってのとおり、この第二次攻勢は、大敗に終わっています」
 アイアダルは、その夜の激戦をあっさりとまとめた。
「自ら前線に立ったガラタクル卿は右足を失い、元帥位を譲ることを余儀なくされました。もともと隻腕であった彼のこと、右足までも失っては、もはや再起不能であろうと考えられたからです」
 もっとも当の本人はそんな大方の予想などものともせず、傷が癒えた翌年には自らの領地から騎士団を率いて戦場に逆戻りし、以後終戦までを戦い抜き、隻腕隻足の猛将などと呼ばれるようになったわけだが。
「問題となるのはここです…」
 問題、という言葉に、クラレイがぴくりと反応した。
「一つは征東元帥自らが攻勢に加わり、自ら剣を振るって戦った理由。それから、作戦決行日を前倒しした理由です」
「前倒しされた?」
「作戦決行予定日は、七月一日であったという記録があるのです」
 キラはそれを聞いても、そうだったのかとただ言葉どおり受け止めただけだった。が、クラレイにとっては違う意味があったようだ。彼はぎゅっと眉を寄せて言った。
「卿はそれについて、どう説明を…」
「議事はあくまで机上でのことですから」
 釘をさすように、彼女は間髪入れず応じた。
「戦の状況によって予定が変わることはあります。それはこの事例に限りません。…このときは、シノム砦に兵力増強の動きがある、という情報を入手し、一刻の猶予もならなかったのだと、わたくしは聞いています」

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