ランドランド〜キラの旅立ち〜 28
「あなたのお父上、キラのお父上、それにガラタクル卿の戦った、シノム‐パドーラ戦線について。シルドは、わたくしが頼んだ資料から、何を調べているのか分かったのでしょうね。自然にファンタン・レジャンの話も出ましたし、その子息をよく見かける、という話もしてくれました」
「……あ」
中途半端な声をあげて、クラレイはそれきり黙ってしまった。あれやこれや勘繰っていたことが、至極まっとうに、当然の流れのうちに解決してしまって、呆気にとられたのだ。
それをよそに、アイアダルはくすくすと笑って、キラを見た。
「――セディン・ジークランドにも子息がいたと思うがさっぱり見かけない、という話もしてくれましたよ」
「ちょ、殿下、蒸し返さなくても!」
あわててキラが抗議する。
「はいはい、でもね、キラ。これはあなたのために言うのだけれど、人のレポートを写すだけでは、知識は身につかないわよ」
「え、そんなこと、……それは、いったいどこからの情報です?」
「これは、あてずっぽう」
いともあっさりと、王姉殿下は言った。目を点にしているキラに嘆息してみせて、
「でも、いまの反応からすると的中したのね」
キラもまた、言葉をなくした。
唖然たる少年ふたりをよそに、アイアダルは淡々と先をつづけた。
「ただ、シノム‐パドーラ戦線には、奇妙なところが多いのです――謎、といってもいいでしょう」
「………」
「もっとも、そこで戦った相手国タルバタナとは、ごく早い時期に和平条約が結ばれて、毎年、友好使節も往き来していますから、どうあってもわたくし自身がそれを暴かなければならない理由はどこにもないのだけれど」
「では、どうして」
キラとクラレイの声が重なった。
二人は思わず顔を見合わせ、そこで続きの言葉が消えてしまったが、
「どうして、こうして調べているのか、ということ?」
と、アイアダルは微笑んだ。
「……ただの好奇心、ともいえると思うわ」
それにしては、微笑に翳りがある――と、見えたのはほんの一瞬だった。彼女はすぐ、言葉をついだ。
「調べれば調べるほど謎めいている、だからわたくしは――今日、クラレイがガラタクル卿と対面するときに、ともにその場にいようと考えたのです」
「………」
奇妙な、しかしどこか憶えのある感覚が、キラの胸にわきあがってきた。
(あ、あのときだ……)
王の御前にクラレイを伴ってもいいかと――その実、クラレイをアリエルと対面させることができるかと、父に訊いたとき。
『王の御前で対面させるなら、おかしなことにはならないでしょうし』というキラの言葉に、父は――あとから思えばあまりにも即座に、こう反応したのだ。
『おかしなこと? アリエルが少年に斬りつけるとでも思うのか?』
父は、そしてアイアダルは、二人が出会うことで「何」が起こると考えているのだろう?