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ランドランド〜キラの旅立ち〜
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ランドランド〜キラの旅立ち〜 27

 だから、やることといっては、いまアイアダルが言ったような当時の記録の収集と提出くらいしかなく、それも大半は部下に任せてしまえばすむことなので、ガラタクル卿自身は、頼まれればアカデミーで特別講義をするか、練兵場で将兵の監督をするか、といったところだ。
 もちろん、今日のように王宮に詰めていなければならない日もあるが、それは元帥の官職ゆえではなく、定期的にある宮中行事の進行についての会議とか、そういった貴族の家柄ゆえに割り振られた政務なのであった。
「だとすると」
 クラレイが首をひねり、
「……戦争そのものに関する記録は、図書館からではなく、ガラタクル卿からの提出に頼っているとすれば、ということですよ」
 そう、念をいれた。
「いったい、司書どのはなにゆえに……というより、どんなきっかけがあって、わたしなどのことを王姉殿下のお耳に入れたりしたのでしょう」
「あなたの言いたいことは、わかります」
 間髪いれずに、しかしごく穏やかに、アイアダルがうなづいた。
「あなたは……そう、お父上のことで、いろいろ、あるみたいですから。あなた自身にまったく関わりのないところで、あなたについてあることないこと、取り沙汰され――しかも、その取り沙汰の内容は厳重にあなたから遠ざけられている。不安でしょうし、不快でもあるでしょうね。今回のことも、『そう』かと思ったのでしょう?」
 彼女以外の人間が口にすれば、相当にずけずけとした、気遣いに欠ける物言いと聞こえるだろう。最後に同情の言葉があってさえ、人の心の奥底をあまりに軽々しく暴露しすぎているのは否めないからだ。
 しかし、アイアダルに限って、彼女に心底を言い当てられることは、むしろ理解を得られたような安堵と感動をこそよぶのである。
 キラにも経験があったが、クラレイも同じ感覚をうけているらしいのを、彼は横目で友人を見て、確認した。クラレイは目をふせ、気を落ち着かせようと深呼吸をしているが、その息さえも震えをおびているのが、キラには分かってしまったのだ。
 が、さらにもう一度深呼吸して、クラレイは平静をとりもどすのに成功した。いや、とりもどしたどころか、妙に開き直ってしまったらしい。
 彼は、さっきまでだったら絶対にしなかったようなことをした。
 暗緑色の瞳で正面からアイアダルを見つめ、単刀直入に訊いたのである。
「殿下。あなたは、いったい何をご存知なんです?」
 アイアダルは驚いた様子もなく、音をたてそうなほど長い睫毛をはらって、まばたきした。
「なにも、知らないのです。わたくしも。だから調べているのですよ」
 クラレイの目が見開かれた。たしかにアイアダルが彼に関わる「調べ物」をしているようなことは、さっき彼女自身の口から聞いた……
「何を、調べておいでなんです?」

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