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ランドランド〜キラの旅立ち〜
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ランドランド〜キラの旅立ち〜 26

 国王陛下(現在、熱い茶に果汁と香料を各数種類、糖蜜、さらには濃いクリームや泡だったやわらかなクリームをまぜあわせ、新種の飲み物を創作するのに夢中である)ならびに王姉殿下を待たせておいて、少々遅すぎるくらいだが、もとより王宮にいるはずだから、直前までの政務が長引いてでもいるのだろう。
「わたくしは、東方大戦のことを、しばらく調べていたのです」
 アイアダルはいった。
「本来、こうしたことは史官が調べ、記録することで――わたくしは、陛下のかわりにそれを認める玉璽を押せばよいだけなのですが」
「東方大戦については、真偽さまざまな情報がいりみだれているうえ、そのいずれを『真』つまり『正史』として認めるかによって、また新たに厄介ごとの種にもなりかねませんから、それは当然、殿下も悩まれるところでしょうね」
 とクラレイ。
 アイアダルは肯首した。
「ですから、ことは現在の外交にも関わってくるので、常のとおりにするわけにもゆかず。……わたくし自らも調べて、納得できてから、玉璽を押すことにしたのです」
「納得とは?」
「矛盾を、なくすこと。そうすれば、真実により近いものとなるでしょうから」
 というより、矛盾さえなければ、それを「真実」ということにしてしまえるのだともいえる。そしてそれを否定することは、たとえ不満があったとしてもきわめて難しい。だから、戦後の諸々の交渉の際、事実として相手国に示しても、十分通用しうるものとなるのである。
 いま、そこまでの説明をいれるつもりは、アイアダルにはなさそうだったが。
「ああ、それで」
 と、キラが手をうった。
「王姉殿下は図書館の資料が必要で、閲覧の手続きで必ず会うシルドと雑談をまじえるようにもなった、というわけですね」
「ええ、ただやはりわたくしが出向くわけではなく、シルドに必要な資料を届けてもらっていたのですが」
「でも、図書館の資料などで、殿下の必要な情報がそろいますか?」
 これは、クラレイだ。
 アイアダルは首をふった。
「図書館でそろうのは、我が国と諸外国が過去に交わした条約、各国の歴史、政治、地理、そういったことに関する資料です。当時の記録は――東方大戦では知ってのとおり複数の地で戦いが展開しましたが、各戦線で指揮官たる将軍がまとめたものを、征東元帥のガラタクル卿に集めて提出していただいたのです」
 征東元帥の官職は、東方大戦の際に臨時に設けられたもので、最初はガラタクル卿アリエルが、彼が負傷してからはジークランド卿セディンがつとめた。
 大戦があらかた決着してからは、ジークランド卿は戦後処理――つまり各国との条約を結んだり、賠償の交渉をしたりする外務卿となり(実際に職務をこなしているのはほとんど部下たちで、彼は文書に名を連ねているだけのようなものだが、「東方大戦の英雄」の名があるだけで、敗戦国相手の交渉は優位にすすむのだ)、元帥にはふたたびガラタクル卿がついた。まあ、名誉職だ。

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