ランドランド〜キラの旅立ち〜 24
「あいわかった」はすっかりどこかへいってしまったらしい。というか、そのためのアイアダルの勧めであったのだ。
……たしかに、エインゼルタインの気をそらすには菓子しかあるまいし、菓子をほおばりながらは、さっきみたいな大音声は張り上げられまい。
みんな、あからさまにほっとした顔になって、苦笑の眼を見交わした。ただ、とんだ一幕ではあったものの、これでまた、その場はぐっと和やかになったのである。
エインゼルタインには勧めたが、アイアダルはまだ茶を飲もうとせず、ほかの二人にも勧めなかった。
もう一人を待っているのは、皆わかっている――
「クラレイ」
ふと、アイアダルがいった。
「さっきのこと、どうして当てたのか、わかる?」
「……」
もはや緊張のせいではないが、クラレイは言葉につまった。
が、アイアダルは、訊きはしたものの、返答を期待してはいなかったらしい、すぐに言をついだ。
「わたくしは、王立図書館の司書とは仲がよいのです」
「……?」
いったい、どういう経路でつながる話なのか、よくわからない。
「その司書――シルドが、あなたがよく来るといっていました」
王立図書館はアカデミーに隣接していて、生徒もよく使う。たしかにクラレイは、よく足をはこんでいた。
「俺はあんまり行きませんけど」
にやりとして、キラが口をはさむ。本来、王姉殿下がお話しの最中に割り込むなどもってのほかだが、この場は無礼講にちかい、そのいい例である。
「それも、聞いています」
アイアダルは微笑した。
「わからないことがあるとき、まず人に尋ねる人と、自分で調べようとする人がいるものです。前者は図書館の資料棚にはあまり足を運ばず、後者はよく運ぶもの……」
「図書館の司書どのが、よくわたしをそこで見かけると殿下のお耳に入れ――それで殿下は、わたしが礼儀に関しても本で調べたのだと思われたんですね?」
クラレイがひきとった。ちゃんと一人称を「わたし」に改めているのに、キラは(まじめなやつ)と内心で考えている。
「ええ、そう」
と、アイアダルは頷いた。それへ、
「ついで、といっては何ですが……ひとつ、いえふたつ、質問しても?」
クラレイが尋ねる。
「どうぞ」
「……わたしのこと、あるいは父のことは、王宮でよく話題になるのですか?」
アイアダルは小首をかしげた。やわらかそうな髪の毛が、ふわりとゆれた。
「どうかしら?」
まさかの返答である。
「はぐらかすつもりじゃないの。ただ――出す人もいればそうでない人もいる、っていう程度だから。わたくしの耳には、そうたくさんの話がとどくわけではないわ。……あなたについてわたくしが知っているのは、たまたま、シルドが自分からわたくしに話してくれたからというだけよ。――答えに、なったかしら?」
「……はい。しかし、出す向きもおられるというのは……」
「それが、ふたつめの質問?」