ランドランド〜キラの旅立ち〜 23
もちろん、王姉が場を和らげる気遣いをしたのでもあることは、皆、解っている。
それをよそにカンカンと響く金属音と、
「まあだぁ〜」
という鼻声がした。
「まあ、陛下、なりません」
アイアダルが慌てて止めたとおり、エインゼルタインが、こちらの三人にのけ者にされているのと、お気に入りのおやつがお預けにされているのが不満で、華奢な銀食器をうちならしているのだ。
椅子から立ち上がれないアイアダルにかわって、キラが幼王の手をそっとおさえた。
「陛下、このフォークは何をするものでしょうね?」
「おやつをたべる!」
「さっきの使い方は正しかったのですか?」
「ちがう」
「これからは正しく使いましょうね」
「うん!」
世話をしなれているキラと、それに懐いているエインゼルタインの様子は、見ているだけでほほえましい。
と、
「陛下、新しく習ったお返事のしかた、教えてさしあげたら?」
アイアダルが声をかけた。
「あ、そうだった!」
エインゼルタインが嬉しそうに目をきらめかせ、
「うーん、えーと……」
一生懸命に記憶をたどる。
「そうだ、思い出した!」
すうぅ、と息を吸い込み、思いきり元気よく、その言葉を叫んだ。
「あいわかった!」
――アイアダルとキラはすんでのところで耳をふさぎ、耳鳴りをおこすはめには陥らなかったが、クラレイは出遅れて、一瞬頭がぐらりとなった。
……幼児がいまのエインゼルタインのような得意げな顔で絶叫する声の恐ろしさを、知っているかいないか――エインゼルタインとの付き合いの長さが、命運の分かれ目になったといえる。
耳をふさいだ二人のほうは、あとから自分たちのやったことが完全に条件反射だったと気付いて、目をまるくした。
「あーれー? クラライ、大丈夫?」
のんきに、エインゼルタインが訊く。
「大丈夫です、大丈夫ですが――」
眩暈はすぐなおったものの、まだ軽く耳鳴りがするのをこらえて、クラレイは答える。
「陛下、どうか御返答は適切なる音量を以て……」
たぶん、内容のほうは半分も、エインゼルタインには伝わらなかったのではないかと思われるが、……しかし、国王は満面の笑みをうかべ、大きく頷いている。そして、
「あいわかった!」
さっきに倍する声をはりあげたが、今回はあいにく、皆に心構えがあった。
三人全員に耳をふさがれて、エインゼルタインはやや憮然たる面持ちとなった。まちがいなく、二度目の「あいわかった」は確信犯的に発したのだ。ただし、新しい返答のしかたを思い出せた得意のあまり、といったところだろう。
アイアダルが嘆息して、
「陛下、お先にお茶をいただいてくださいな」
テーブルの上の焼き菓子、蒸し菓子、砂糖菓子、それにフルーツ類――生のや干したのや、シロップ漬け、糖蜜がけもある――茶に入れる香料さえ手の指の数だけあるのを指し示した。
「やった!」
と、王はとびあがった。